人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記211

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(人名はすべて仮名です)
・5月8日(土)晴れ
「朝の会は山崎さんの転院のあいさつ。もう肝癌がステージ4に進行していて延命措置の可能性しかない、と本人の口から淡々と告げられる。皆さんも引き返せるうちに引き返してください、と結ばれると沈鬱な拍手で送るしかない。そういえば冬村さんの退院を書き落してしまったが、これでついに第三病棟の最古参患者になってしまった。数日差で勝浦くんがいるが、彼はアルコール科ではない。いずれこの日が来るとはわかっていたのだが、実際そうなると息が苦しい」

「久しぶりにメールチェックしようかと思い立ち、朝の会の後ナースステーションから携帯電話を出してもらって外来ロビーに行く。堀内さん、片桐さん、神田さんからのメールは前回のメール以降の近況で、堀内さんは末期癌との闘病、片桐さんは精神疾患と貧乏、神田さんはご両親の重い病気と切実だがどなたも心の美しい人たちなので胸に詰まる。とても自分には彼らのようにはできない」

「退院の前日、滝口さんに携帯電話をひったくられてメール送信されてしまったため、こちらのアドレスは向こうには知れている。タイトルはお試しメール、本文はふとんがふっとんだ、というのが彼女から来ていた。滝口さんにメールするなど考えてもいなかったが酒歴原稿を済ませたこと、滝口さん退院後の病棟の動向や出来事を書き始めるときりがない」

「たとえば今日の朝の会は灰皿当番や日直の割り当てについて揉めにもめ、看護体制自体の不信から苦情と反論の応酬になり、中里さんが抗議すると根島看護婦から、お酒が飲めないからイライラしてるんじゃないの?これには中里さんもキレて、こんな病院入院してても意味がない!婦長か院長呼んできてください!と気の弱い男性患者はびくびくする」

「ところが午後になると元々ずぶとい根島看護婦はともかく、中里さんも何事もなかったかのような様子に戻っていた。根島看護婦は中里さん担当で、今朝くらいのやりあいはもう何度もしているらしい。案外ルームメイトだった滝口さんが退院して寂しいのかもしれませんよ。滝口さんと部屋で女同士の話してた頃は楽しかった、すごく話題が広くて、頭のいい人で、と懐かしんでいました、とメールに書く。夕方、退院していた工藤が第三病棟に再入院の情報で慄然。再び第三と第二病棟の通路封鎖の戒厳令体制になる」