人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(3)

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…気まずい沈黙が流れました。無礼者、それがムーミン族の長たる私への答えか!とテーブルの上に片足をあげて恫喝の態度に出かねないのがムーミンパパの性格です。能もないのにブライドだけは高いんだから、この野郎と、ムーミンママはエプロンの裏に隠したフライパンの柄を握りしめました。ムーミンパパがムーミン谷の長というのは都合のいい時だけ持ち出してくる理屈で、ムーミン谷はその呼称からもわかるようにムーミンの存在を中心とした空間でした。
だからといってムーミンがいなければ存在しなかった世界ではなく、元始からスナフキンスナフキンであり、ニョロニョロは目障りな場所に野生し、ミイは昔から金切り声をあげていました。ムーミンパパとムーミンママもそうです。ムーミンに合わせてお茶の水博士に造られたような存在ではなく、人の世のパパやママが潔く子供を基点にした関係代名詞的呼称を受け入れているのと事情に差はないことでした。
しかしこのトロール棲息特区が代表的個体の名称に基づいてムーミン谷と公称されるからには、ムーミンパパが一族の長と自称し増長するのも無理からぬことです。目に余る事態に至ればムーミンママの適切な判断で頭部にフライパンの一打が下され、人格の初期化が行われてきました。その技は居合の達人級ですので、ムーミン谷の人びとには一瞬ムーミンパパの表情が硬直し、それまでの饒舌が突然寡黙になる現象、としか見えません。
ただしムーミンママは別にこれを隠れて行っているつもりはないので、偽ムーミンが隠し撮り解析してそれとなく脅迫した時もふふ、どうかしらね、と退けることができました。別に露呈してもムーミン谷の秩序を揺がすような秘密ではないからです。かえって偽ムーミンの方が立場を危うくするのに気づき、以後はムーミンママの挙動は一切不問に付すことにしました。
レストランの食事に期待がかかるのも図書館司書はコンビニ弁当以外の食事を出しませんし、ムーミン家の食卓は虫のついたままのサラダや腐臭のするスープ、吸殻や毛や輪ゴムの入ったコロッケやハンバーグなどで、これはムーミントロールは食事の必要はなく毎日生ゴミにしては料理しなおしているからです。まともなのはインスタントコーヒーくらいでした。
その頃レストランではようやく具体的に注文をまとめる決議が取り行われておりました。