人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(14)

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・前回までのあらすじ―
ムーミンパパは新規開店したムーミン谷のレストランで、コース料理最初のスープをまず息子から飲むように勧める。レストランは物見高いムーミン谷の人びとでごったがえしていた。だがその息子ムーミンは、実は食前にトイレに行ったふりをして偽ムーミンがすり替っていたのだった。

えっ、パパ、どうしてぼくからなの?
それはわれわれムーミン族では一家の大黒柱は長男だからな。ムーミン族の一家が福祉の恩恵を受けるには絶滅指定種というだけでは駄目なのだ。後継ぎの存在がなければならん。だからいずれお前もフローレン…(聞き耳に気づいて濁し)どこぞのお嬢さんを孕ませて亭主におさまり、それでこそ一人前のムーミンというものだ。わーったか?
パパ、あなたってしゃべり始めるといつも長いのね。もっとわかりやすく話してくださらない?
そんなことを言われてもこれが私のキャラクターなんだから玉子に丸いぞとケチをつけるようなものだ。サソリとカエルの話は話したことがあったかね。
ありますよ、初めてお会いした時もお話していたじゃありませんか。
あの嵐の晩にか?というとお前は船酔いしてゲーゲー吐いていたんだっけな。命が助かったんだから船酔いくらい我慢しろ、と優しく慰めたのは憶えているが、あの状況で私の与太話を憶えていたとはママもなかなか隅に置けんな。
こんな時になんて男だろうと思ったんです。
あの頃私は冒険家だったからな、良家のお嬢様の尺度で見られては困る。実際、こうして夫婦になったではないか。
サソリとカエルの話?
ムーミン
おや、まだムーミンは知らなかったようだな。では話そう。
私は聞きませんよ。
ご自由に。では…川の前でサソリが渡れなくて困っていると、カエルが泳いでいました。向こう岸に乗せてくれないか、とサソリは頼みました。嫌だよ、きみは刺すだろ?刺さないよ、とサソリは約束しましたが川の真ん中まで来た時サソリはカエルを刺しました。二匹でぶくぶく沈みながら、カエルはサソリに言いました。何で刺したんだ、おかげでどちらも死ぬんだぞ。するとサソリが言いました―だっておれ、やっぱりサソリだもん。
…パパ、よくわからなかったよ。つまり…
つまりお前がカエルならサソリを乗せるな、サソリならカエルに乗るなってことさ。ほら、スープが冷めるぞ。