人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(16)

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いやーこうやって黒ビールなどを飲んでいると、とムーミンパパは旨そうに喉を鳴らしながら言いました、私が冒険家だった頃の数々の思い出が胸をかすめて万感の思いがあるな。
どうしてなの?と偽ムーミン。別に興味があったから尋ねたわけではなく、思わせ振りなことを誰かが口にする時はたいがい訊いてほしいことがあるからです。ではこちらはどうだろう、とムーミンママを見ると、いつも通りの穏やかな微笑を浮かべていました。ということは、ムーミンママにとっては無表情と同じことです。もちろん偽ムーミンにはムーミンママがテーブルの下でフライパンの柄を握っていることなどわかりません。
冒険家というのはだな、とムーミンパパ、冒険をしている時と同じかそれ以上に冒険ができない期間が長いのだ。具体的には一国の傭兵になって大活躍、これは冒険の醍醐味で、戦争の性質次第では〓〓や〓〓なども思いのまま、〓〓〓だって〓〓放題。だが一旦浮虜となると苛酷な戦争ほど浮虜の身分など単なる奴隷でしかなく、劣悪極まりない環境でいつ明けるとも知れない強制労働が待つ身となる。これが冒険の代償というわけさ。
嫌ですよパパ、とムーミンママがおっとり、たしなめます。
まったくだ、とムーミンパパ。しかも晴れて戦争が終結し、浮虜とは名ばかりの奴隷労働から解放されても傭兵の身分では浮虜を名目に戦功報酬を踏み倒され、軍人恩給も戦慰補償金も受給できないのだぞ。自由の代償と言えるものは一杯の黒ビールだけだ。
ムーミンパパはもうひと口グッと飲むと、私が貸しのない海運国は地中海にはないに等しい!だいたいあんな海賊の末裔みたいな連中がたかだか税関詐欺だの組織的密輸だので私のような冒険家をブタ箱にぶち混むなんぞおのれを知らぬ行為にもほどがある。不正とは神のみぞ知るとはよく言ったものだ。しかも奴隷労働つきだぞ!
というわけで、とムーミンパパは言いました、世の中広しといえど、たかがパイプの一服、黒ビールの一杯にこれほど至上の喜びを感じるにもどれだけ元をかけねばたどり着けないかを理解するには冒険家としての生き方を究めなければならぬ、と悟るまでには、
ムーミンパパは文法が混乱してきたので面倒になって、そういうわけだムーミン
うんわかった、と偽ムーミンは適当に応えました。でもパパ、スープが冷めちゃうよ。