人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(35)

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・卑怯もの!
とフローレンはいつもより低く、ですがレストランのすみずみまで響きわたる声で罵りました。それは普段の彼女を知るなら唖然とするような豹変ぶりで、居丈高ではないだけ冷酷に真実を突いた鋭さを感じさせました。それは決して彼女が口にしたことのない言葉でした。
卑怯もの?なんのことか、ぼくにはちっともわからないよ、と稚拙な受け答えをしたのはムーミンです。フローレンとは対照的に、とぼけてみせるムーミンはいつものムーミンでした。きみは頭でも痛いのかな?幸いここはレストランだし、幸い隣には薬局がある。
・看板『国民薬局』
国民薬局、非国民薬局、どうでもいいわ。いま私に必要なのは頭痛薬じゃない。でももし薬局にあれば…
わかった、便秘薬だね。
違うわ!あなたには女の心はわからないのよ。
そんなことないわ!私でも女言葉くらい使えるわよ。でも彼氏がおネエしゃべりしていたらあなただってヤよね?
お願いだから止めて…。
で、頭痛でもない便秘でもないなら、他にはなあに?水虫かい?
あなたにはその程度の想像力しかないのね。国民薬局で買えるもので治せないものはないと思って?
コクミン薬局はあなどれないゾ
あの店はね、F1のチケットと居酒屋のドリンク券でお腹の薬を譲ってくれるんだゾ。だてに国民薬局というんじゃないんだゾ。
私も聞いたことはあるわ。でもそれは相手がブタの場合だけでしょ?
どうしてブタの場合だけなんだい?
そうでもしなきゃ追い払えないからよ。コマンタレブーとかホザいて座り込みでもされたら嫌でしょ?
それならぼくはカバのふりをするよ。ゴネるカバも同じくらい嫌だろ?
あなたの場合フリしなくてもカバでしょ?(嘲笑)
(絶句して)きみたちスノーク族がそんなこと言えるのか!ムーミン族とスノーク族は代々の婚姻で事実上混血じゃないか。やめよう、馬鹿馬鹿しいよ。カバ似のトロールどうしがカバと罵りあってもらちがあかないよ。LOVE NOT WAR!っていうじゃないか。それより不純異性交遊でもしようよ、フローレン。
…それはプロポーズと受け取って良くて?
そうさ。
・店中の客の拍手
・フラッシュのシャワー
照明が点き、新郎新婦が舞台を降りました。スナフキンはぼーっと壁にもたれていました。そこは当時谷で唯一のレストランでした。