人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記233

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(人物名はすべて仮名です)
・5月15日(土)晴れ
(前回より続く)
「昼食をはさんで地元の友人知人に退院日決定の報告を送る。遠隔地の友人とは滅多に会う機会もないので今回の入院は知らせていない。滝口さんへの再返信は明日でいいだろう。結局この病院の交通の不便と、退院日は雨予報、しかも滝口さんの外来通院の診察日と受診終了時刻までこちらの退院手続き完了予定時刻と都合が合うとなれば、断る方がよほど意固地ではないか。単純に好意としてその場かぎりに受ければいいのだ(註)」
(註)そうはいかなかった。彼女はこちらの地元の高校出身だから自宅まで送ってもらうことになり、退院翌日から毎日のように訪ねてくるようになる。

「一番風呂と点呼を済ませて、夕食までマルカム・ラウリー『火山の下』をなんとか第一章だけ読む。旧い訳書(『活火山の下で』)とはいえ高校生の頃に読んだんだよな?解説もこの新訳ほど詳細ではなかったはずだが、さほど抵抗感もなく半日で読過したはずだ。高校生の感覚では単に文字面を追っていただけなのだ。真剣に読むとこれは完全に読者の理解力を度外視して書かれている、としか思えない。文学的実験でも斬新なテーマの追求でもない。憑かれたように書いたものをさらに解体した痕跡があるから作者には意図があるはずだし、錯乱の結果でもないだろう。だが入院中には読了できそうにない」

「土日だから日中のプログラムはないが、夕食後に院内例会(断酒会)が来る。今週は昼間のAAマック、夜は二回別地区のAA、そして今夜は断酒会だ。やってきたのは先月同様地区会長で、ひとりで一時間話す。その後の質問コーナーがもつれた。佐藤さんからの質問は断酒会の定例スケジュールと尋常だったが、池田くんがまたやってくれた」

鬱病躁鬱病アルコール依存症と自分の診断名の変遷を述べ、正規の医療機関とはどの程度信用できるのか、昨日今日と連日看護婦に院内飲酒を疑われている、奇行が目立つと注意を受けているがなぜか、と断酒会地区会長に訊いても返答しようがない質問を繰り広げた。池田くんの今日の奇行と電波発言は病棟のみんなが知っている。あれでは院内飲酒まで疑われるのも無理はない。彼は午後に外出して戻ってきてから病棟中を混乱と憶測に陥れたのに、本人には奇行という意識すらないらしい。具体的には…」
(続く)