人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(50)

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手際がいいな、とジャコウネズミ博士は感心してヘムル署長とスティンキーの前に並んだ前菜を眺めやりました。われわれなんぞはまだ食前酒すら頼んでおらんよ。まあそれは先生方は学者だがわれわれはおまわりと泥棒だからね。うむ、では同じものを注文するのは失礼に当るまいね?
でもそうするしかないじゃない、とミムラねえさんは弟妹たちのブーイングをはねのけました。私たちが全員好き勝手なものを頼んだらどうなるか、同じテーブルに35人もいるんだから想像つくでしょう?
だが問題はそんなことじゃなかったんだ、とスナフキンは思いました。スナフキンは谷で唯一の後天的トロールだったので、記憶のかけらがまだらボケ状にあるのです。問題は何を境に、おれがここの住民の一員になったかなのだ。
フィリフヨンカは孤児院の経営者でもありましたが、自分にその素質があるとは自信が持てませんでした。彼女はある種の自己啓発セミナー中毒者でしたが、周期的に克己心を起して受講してみるものの、セミナー自体が彼女には試験だったのです。明らかに自信ありげなトゥーティッキと存在自体が凍てついたモランとの同席は、フィリフヨンカをますます心許ない気持にさせました。
トフスランとビフスランは熱く見つめあい、おいしい?一緒なら何を食べてもおいしいね、と注文しなかったはずのコンニャク入りコロッケを分けあってつついていました。
では私が代って注文しようか、博士らはなんの料理か知らんだろう。ビールは中ジョッキでいいね?ウェイター!カブラのドンドコ煮とトンビのパッパラ揚げ追加、急いで頼む!そういう料理だったのか、見た目はどちらも不細工なコロッケにしか見えんが。
ウッーウッーウマウマ、と突然スノークは踊りだしました。どうしたのお兄さま気でも狂ったの?失敬な、これは佯狂というのだ。つまり気ちがいのふりだな、実は昔から試してみたかったのだ。お兄さまは留学されて学歴はあるけど知性はないのね、私が訊きたいのは…。なぜ踊りだしたりするのか、だろ?昔観た芝居の王子さまがこうやって周囲を欺いていたのだ。恋人を尼寺に行け!と自殺に追いやりまでしてな。
それなら知ってる、と図書館住まいの偽ムーミンは思いました。つまりおれ、正しくはムーミンになりすましたおれがハムレットになればいいわけだ。これは切り札に使えそうだぞ。
第五章『運命』完。