人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記236

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(人物名はすべて仮名です)
・5月16日(日)晴れ
「いまNHKのど自慢が始まった所なのがデイルームから聞えてくる。今日はおおむね平穏に過ぎそうだ。朝の会でも特別な連絡事項なし、三田さんは昨日から帰宅外泊しているし、金子は相変らず消息不明で憶測ばかりが飛びかっているし、尾崎、大芝、池田、三上、古田、中里さんら、ほぼ半数が帰宅外泊か午前中から夕方までの外出をしているので、昼食は閑散としたものになった。メニューは塩タンメンと蒸しシューマイとフルーツポンチでなかなか結構だったのだが」

「日曜なのでプログラムも掃除もない。朝に出してもらった携帯でメールチェック、滝口さんからの返信は土地勘があるから最寄り駅まで送ります、懐かしいしとのこと。彼女はその最寄り駅から高校に通っていたのだから、卒業して20年以上経った以上は懐かしいだろう。こちらは中退してしまったくらいでいい思い出などまったくない。1980年に入学したのだからもう30年経つ。隣町の高校に転入してその年の暮れ、母は急死したのだった。心労をかけて殺してしまったようなものだ」

「先に片岡さん、堀口さんへのメールを書き上げて送り、これで連絡取っている全員に退院予定日のメールを送り終えた。滝口さんからの申し出はありがたく受ける。病院からの最寄り駅と自宅の最寄り駅は15分程度しか離れていないが、荷物もでかいし三か月近く入院していた身には賑やかな電車はこたえる。自宅の最寄り駅まで送ってもらえば自宅までは150mしか歩かない。滝口さんへのメールを送り終えて、ちょうど昼食になったのだ」

「昼食を終える寸前に隣の勝浦くんの正面の席、滝口さんの退院前の席で吉村くんが逃げ出して空席だった席に今村くんがいるのに気づき、席変ったの?はい。そうか、よろしく。よろしくお願いします。病棟で一番古株になってしまったので、年下には遠慮なくくんづけで呼び、語尾にも敬語をつけなくなっている。今村くんなら勝浦くんも第三病棟で長かった頃からの顔見知りだから、吉村くんをなんだコイツ、とにらみつけていたような態度はとらないだろう。それに明日の朝食後すぐに勝浦くんは退院だ。―午後の灰皿掃除の前に一服しておこうと喫煙室に行き、もうすぐ灰皿掃除ですねと島田さんと話すと、忘れてた当番私でしたと言うので一服後そのまま掃除を手伝う」
(続く)