(人名はすべて仮名です)
・5月9日(日)晴れ
「母の日。今年は義母にも娘たちの母へも花は贈らずに済ます。この週末の帰宅外泊患者は坂部、金子、尾崎さんの三人だけというのも珍しいが、尾崎さんは気性の良い人だからともかくとして、何かにつけて他人に絡み、口うるさくて説教くさく、肝心な時には無責任でいる坂部と金子のおやじ二人がいないだけでもずいぶん病棟が落ち着いている。ということは、あの二人がいるだけで普段のこの病棟は嫌な雰囲気になっているということだ」
「月曜は酒歴発表だと思うとさすがに緊張する。酒歴というのはなるべく告白的に詳細であることが望まれているから、先週帰宅外泊した時に額に入れてキッチンに飾ってある別れた妻子の写真を持ってきた。2004年九月。妻は36歳、娘たちは6歳と3歳。滝口さんに見たいと言われたので見せたら、佐伯さん面食いなんでしょうと言われ、面食いってなにが?奥さん綺麗だもの。実物は写真より良いが別れた妻は特に美人というのではなく、容貌で結婚したわけではない。彼女の笑顔が好きだったが、もう見ることもない」
「昨日メールを打っていたら吉村くんが、朝の会の騒動の件だろう、みんな大丈夫なんでしょうか、と訊きに来る。心配ない、ああいう事は自然に治まるから、と答えたが実は彼の本題はその後で、勝浦くんのことがこわい、どういう人なんですか?と言うのは驚く。滝口さん退院後に勝浦くんの正面席になって、勝浦さんの乱暴な言動に怯えて、にらまれるんですけど、と相談されてもいたが、ああいう人間だから、では納得できず妄想が広がっていたのだ。なんでおれに訊くんだい?勝浦さんのお友達と思って。席が隣で相部屋なだけだよ。勝浦くんに話すと、正面が男でメシが美味く食えるかよ」
「一番風呂で勝浦くんや森下さんと今日の風呂はぬるいな、足し湯じゃ追いつかないからぬるい湯を抜こうか、と栓を抜いて湯量を減らし、再び栓をしようとすると斜めにはまって水圧で引き抜けず、チェーンも取れてしまった。お湯が抜けるので勝浦くんが踵でガンガン栓を押し込み、これって連帯責任だよなと苦笑しながら、湯上がりに五人くらいでナースステーションに報告に行く。当直看護婦が話のわかる相原さんだったのがラッキーだった。夕食後に報告して事なきを得る(どうやって直したのだろう?)」(続く)