人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

Il Rovescio Della Medaglia-"Contaminazione"Italy,1973

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Il Rovescio Della Medaglia-"Contaminazione"(Full Album/Italy,1973)
https://www.youtube.com/watch?v=qTLXbORe49U&feature=youtube_gdata_player
A1.消滅した世界 Absent for this consumed world (1:05)
A2.忘却の彼方へ Ora non ricordo pi?? (1:47)
A3.静寂なる響き Il suono del silenzio (5:16)
A4.目覚め…そして再び夢の中 Mi sono svegliato e...ho chiuso gli occhi (4:19)
A5.貴女への熱き想い Lei sei tu: lei (2:04)
A6.君に捧げる歌 La mia musica (4:10)
B1.ヨハン・セバスチャン・バッハ Johann (1:23)
B2.スコットランド・マシーン Scotland machine (3:06)
B3.独房503号室 Cella 503 (3:18)
B4.汚れた1760年 Contaminazione 1760 (1:04)
B5.電波障害 Alzo un muro elettrico (2:55)
B6.豪華絢爛豪華な部屋 Sweet suite (2:17)
B7.終焉のフーガ La grande fuga (3:42)
Concept,Direct and Produced by Luis Enriques Bacalov
Pino Ballarini-vocals
Gino Campoli-percussives
Enzo Vita-guitar
Stefano Urso-bass
Franco di Sabbatino-keyboard
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 イタリアの映画音楽家ルイス・エンリケス・バカロフの作曲・オーケストラ指揮によるロック三部作でも三作目に当たるイル・ロヴェッショ・デッラ・メダーリャとの『汚染された世界(コンタミナツィオーネ)』の評価はひときわ高く、三部作の第一作『コンチェルト・グロッソ』1971(ニュー・トロルス)、第二作『ミラノ・カリブロ9』1972(オザンナ)を上回る傑作とするイタリアン・ロック愛好家も多い。イタリアン・ロックといっても70年代限定になるが、ベストテン、ベストスリーどころかイタリアン・ロックのベスト・ワン・アルバムとまで評価されることもある。
 それほどのアルバムかどうかを考える前に、このアルバムはイタリアン・ロックには稀な英米盤が発売されているのをご紹介したい。全歌詞を英語詞に変えて、ジャケットもスモッグ?を模したものに変えている。イタリアン・ロックでは73年に老舗ニュー・トロルスが『アトミック・システム』で初の世界デビューを果たし、プレミアータ・フォルネリア・マルコーニもPFMと略称して同年に『幻の映像』で国際デビューに成功し、同年のレ・オルメの英語詞版『フェローナとソローナ』は失敗、75年のバンコ・デル・ムットソゥ・ソッソルコはバンコの略称で『イタリアの輝き』を発表したがこれも国際デビュー失敗で、同75年に本作の英語詞版"Contamination"をRDMの略称でリリースしたメダーリャも国際デビューには成功せず、バンドは解散した。アメリカ盤『コンタミネーション』の曲名表記は次の通りになる。
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RDM-"Contamination"1975
A1.Absent Mind/2.Orphan Me/3.Johann's Rock/4.Another Name Am I/5.Crazy Baby/6.Lost Myself Today
B1.Johann/2.Scotched/3.I Can Fly/4.Contamination/5.Isolation Ward/6.For The Love Of Anna/7.Bach Lives
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 国際デビューに成功したニュー・トロルスやプレミアータはもちろん、レ・オルメやバンコも国際デビューには失敗したとはいえイタリア本国での人気は高く、結成から45年もたつバンドとなれば休止期間もあったが、どのバンドも現役で80~90年代、今日まで活動している。メダーリャも21世紀になって『汚染された世界』再演ライヴのために復活したが、それはたまたまこのアルバム一作のために21世紀のリスナーからも要望が高かったからで、75年の世界デビューで失敗するとイタリア本国での人気もなく解散してしまったのがメダーリャだった。
 他の人気バンドも結局は本国中心の活動に戻ってくるのだが、アメリカ公演のライヴ盤を出したプレミアータは別格として、国際デビューの試みの直後から各バンドともライヴ盤の発表が相次ぐ。イタリアじゃ俺たち人気あるんだぜ、というファン・サーヴィスなのはライヴが下手では定評のあるレ・オルメが真っ先にライヴ盤を出したことでもご愛嬌だが、聴くに耐えないオルメの汚点と呼ばれる『レ・オルメ・イン・コンサート』1974も悪いアルバムではない。むしろ情熱先行で大いによろしい。
 1973年と1974年はイタリアのロックのみならず音楽産業で明暗を分けた年でもある。日本でも同様だったのだが、産油国との原油価格交渉に亀裂が走り、原油価格の高騰から全産業の生産コストが上昇して一年も経たずに物価が1.5倍あまりに暴騰した。72~73年はイタリアのロックの最高の成果があった年だが、74年には大半のバンドが解散に追い込まれたか、この年に出すアルバムをもって解散することになった。イ・プー、プレミアータ、バンコ、ニュー・トロルス、レ・オルメ、また政治的グループとして特殊な非商業的活動をしていたアレアくらいしか残らなかった。
 メダーリャ改めRDMは、ピンク・フロイド『狂気』のロング・ヒットと肩を並べたアフロディティス・チャイルドの『666』やタンジェリン・ドリームの『フェードラ』、イギリス産だがいわゆるロックの流れにはないマイク・オールドフィールド『チューブラー・ベルズ』らと同じジャンルに入る、ロックのリスナー向けムード音楽としてアメリカ発売が実現したのだろう、と思われる。だが彼らはヴァンゲリスのプロデュースによる洗練されたアルバム『フォス』で英米デビューしたギリシャのバンド、ソクラテスと同様、ファースト・アルバムとセカンド・アルバムではむしろダサめのハード・ロック・バンドだったのだ。今では日本盤CDも出ている『聖典(ラ・ビッビア)』1971と『我思う故に(イオ・コーメ・イオ)』1972がそれで、これらの日本盤が出ているのも『汚染された世界』一作がトップクラスの人気のあるバンドだからだろう。25年前にもこの2枚は中古LPがやたらと安価に出回っていた。ニュー・トロルスやオザンナのような、いかにもイタリアくさいハード・ロックなのだが、トロルスやオザンナがあらゆる点で大人とするなら中学生くらいのセンスと技量しかない。
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 なのにバカロフ三部作の中でこれが一番の人気作になり、イタリアン・ロックの中でも過大というほどの評価を受けているのは、まずメダーリャというバンドについては票が散らない。一発屋みたいなものだからだ。前述した一流バンドには『汚染された世界』以上の傑作は何枚もあるが、そこでかえって最高傑作の一致を見なかったりもする。
 バカロフの関与については、まずトロルスやオザンナの時は音楽作品であるとともに映画音楽、サウンドトラックとしての仕事だった。アルバムの半分はトロルスなりオザンナなり、ロック・バンドのみの演奏が求められ、それらはバンド側が曲も用意していた。
 このメダーリャとの作品で、バカロフは初めてサントラではないロック・バンドとの共作アルバムを制作することができた。A面6曲、B面7曲と楽曲はこれまでになく細分化されているが、実際はA面もB面も片面1曲でシームレスに流れていく。全曲の作曲をバカロフとメダーリャのギタリストのヴィータが共作し、ヴォーカル曲のA2~A6、B1、B3、B5には作詞家を迎える。イタリア盤では"Ideato e diretto da Luis Enriques Bacalov/Produzione:Luis Enriques Bacalov"と、あくまでバカロフのアイディアによる、バカロフが監督し、バカロフが制作した作品であることが強調されている。
 たとえ映画サントラという条件なしにトロルスやオザンナとこれをやろうと思っても、彼らではそうはいかなかっただろう。『コンチェルト・グロッソ』でも『ミラノ・カリブロ9』でも、トロルスやオザンナはバカロフを喰っていたと思う。『汚染された世界』はメダーリャがプロデュースの余地のある、言っては何だが未熟なバンドだったからバカロフが思うままに制作できたのだ。だから映画音楽家の作ったロック作品としては成功だろうが、メダーリャという本来ならばハード・ロック・バンドのアルバムと言えるかは疑問がある。
 メダーリャはベーシストの腕前がいまいちで、一曲単位が短いので仕方なくもあるがエイト・ビートが継続する曲も少ない。エイト・ビートとベースの躍動感が欠けていて優れたロック作品と言えるだろうか。ギタリストのヴィータが全曲を共作しているとはいえ、前2作のハード・ロック路線はほんの少しだけ、バンド・パートで姿を見せるにすぎない。もっとも、ファースト・アルバムでは聖書、セカンド・アルバムではヘーゲルをテーマにするコンセプト・アルバム趣味はメダーリャにもあった。今回は外部作詞家によるものだが、汚れた1760年て何だろう。ウィキペディアに当たってみたが、インドネシアモルッカ諸島の噴火か?それとも七年戦争の推移か?
 それとB2『スコットランド・マシーン』だが、アープ・シンセサイザーが出している鳴き声は曲名から推定してネッシーのつもりなのだろう。日本の誇る四人囃子に『泳ぐなネッシー』という曲があり、『およげ!たいやきくん』へのアンサー・ソングとも、歌詞を素直に聴くなら人間に見つかっちゃあぶないよ、とネッシーに呼びかけている曲なのだが、アルバム収録は76年の『ゴールデン・ピクニックス』と遅いもののライヴ盤では73年にはもう完全して演奏している。日本でもイタリアでもネッシー関係のニュースがブームだったのか。『汚染された世界』というのも、オイル・ショックと同時期から騒がれ始めた公害問題に由来しているのだろう。案外イタリアというのも、日本と時代と生活感覚を共有してきているのかもしれないな。