人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

New Trolls-"UT"Italy,1972

イメージ 1


New Trolls-"UT"(Full Album/Italy,1972)
https://www.youtube.com/watch?v=WOJR93-laeE&feature=youtube_gdata_player
[Tracce]
A1.スタジオ Studio (Cramer/Salvi) ? 3:10
A2.22番通り XXII strada (Di Palo/Salvi) ? 1:51
A3.オンタリオ湖の騎士達 I cavalieri del lago dell'Ontario (Belleno/Chiabrera/Di Palo/Rhodes/Salvi) ? 5:02
A4.木の葉の物語 Storia di una foglia (Belleno/Di Palo/Dini/Rhodes/Salvi) ? 2:57
A5.誕生 Nato adesso (Belleno/Di Palo/Dini/Rhodes/Salvi) ? 7:54
B1.大戦争 C'?? troppa guerra (Belleno/Di Palo/Dini/Rhodes/Salvi) ? 9:53
B2.パオロとフランチェスカ Paolo e Francesca (Belleno/Chiabrera/Di Palo/Rhodes) ? 6:06
B3.誰が知るか Chi mi pu?? capire (Belleno/Di Palo/Martinis/Rhodes/Salvi) ? 4:35
[Formazione]
Nico Di Palo: chitarra solista e voce solista
Maurizio Salvi: pianoforte, organo, Eminent e ARP Synthesizer 2600
Frank Laugelli (alias Frank Rhodes): basso
Gianni Belleno: batteria e voce
Vittorio De Scalzi: chitarra Leslie in I cavalieri del lago dell'Ontario
*
 このジャケットのセンスには恐れ入る。イギリス人がユニオンジャックアメリカ人が星条旗、日本人が日の丸をアルバム・ジャケットにするようなダサかっこよさがある。ユニオンジャックをアルバム・ジャケットにあしらったのはザ・フーだがアメリカではスライ&ザ・ファミリー・ストーン、日本ではチューリップが75年のアルバム『日本』で日の丸弁当の写真をジャケットにしている。実はチューリップはアルバムでは結構キンクス的な毒を効かせたバンドだった。
 でニュー・トロルスですが1967年のデビュー以来現在もアルバム制作・ライヴ活動現役で健在ぶりを見せつけており、英米の有名バンドで言えばイエスみたいに主要メンバーが脱退・再加入を繰り返していてイエスよりもメンバー・チェンジ回数は多いが、デビュー年もイエスより早く活動のブランクも少ない。今年で現役満47年なのだ。長寿バンドの多いイタリアでも実際は活動休止期間の方が長かったりするのだが、トロルスの連中は脱退したメンバーが別バンドを作ったり(イビス)、トロルス本体もオリジナル・メンバー一人でトロルスの暖簾を守ったり(『アトミック・システム』)、新メンバーのトロルスがあっさり解散した途端に旧メンバーで再結成して『コンチェルト・グロッソ2』を発表したりする。中心メンバーはギタリスト=ヴォーカルのヴィットリオとニコで、この二人がくっついたり離れたりで他のメンバーも替わってくる。
 トロルスは他に匹敵するのはイ・プーくらいかというほど多作で、バンドの格はプレミアータやバンコ、アレアには及ばず、レーベル(イタリア国営放送局のフォニト・チェトラ)の後輩オザンナと同格くらいだから、イ・プーを加えればイタリア六大バンドにはかろうじて入る。ただしこの六大バンドでは一番カリスマに乏しい。イ・プー、プレミアータ、バンコ、アレア、オザンナは全アルバムを集めたくなる魅力があるが、ニュー・トロルスはどうかというと……その辺もあとで触れる。
*

イメージ 2


 トロルスのアルバムでは『コンチェルト・グロッソ』『UT』『アトミック・システム』の知名度がずば抜けて高く、この3作のどれかから入る人が大半だろう。トロルスは「暗のオザンナ、明のトロルス」とも言われるが、オザンナに一番近いアルバムとのことで最初に買ったトロルスが『UT』だった。これが『コンチェルト・グロッソ』や『アトミック・システム』では随分印象が違ったのではないか。それらは全然オザンナに似ていないし、はっきり言ってその3作は別バンドの作品と言って通る。
 そればかりか、『UT』(17世紀の「ド」の音名)は旧A面の組曲形式の5曲、大曲3曲が並ぶ旧B面とでは別のバンドみたいなのだ。B面3曲は物凄いもので、プログレ化したツェッペリンのような爆裂ナンバー『大戦争』(ツェッペリンの『俺の罪』に似ているが、同曲収録のアルバム『プレゼンス』は76年の発表)にやられ、メロメロなラヴ・バラードに後半ギターが恋人同士の会話を模倣したソロを延々聴かせる『パオロとフランチェスカ』、曲自体も美メロだがソリーナ(ストリングス・キーボード)とピアノのアレンジが絶妙な『誰が知るか』はB面だけでお腹いっぱいの統一感があり、2曲もバラードがあるが異なるタイプのパワー・バラードで、このB面は素晴らしい。問題は組曲形式のA面で、冒頭からクラシック曲のロック・アレンジをイントロに、A面随所にクラシック曲の引用がある。成功していればそれもいいが、ジャズ・ロックになったり、フォーク曲になったり、アープ・シンセサイザーのソロをフィーチャーしたプログレらしいプログレになったり、エンディングは長い長いギター・ソロといった案配で、聴きどころは多いが焦点が定まらない。『コンチェルト・グロッソ』はA面はオーケストラと共演したクラシカル・ロック、B面はバンドのみのインプロヴィゼーション曲とAB面各1曲ですっきり分かれていた。ギタリスト二人のうちヴィットリオはアレンジャー型、ニコはジミ・ヘンドリクス傾倒型で、『UT』のヘヴィ・サイドはニコがリードしたらしい。
 で、『UT』発表後ヴィットリオ以外の全員が辞めてしまう。四人連名のアルバムを制作した後イビスと改名し国際デビューを計るが成功しない。ヴィットリオは一人でトロルスを引き継ぎ新メンバーと『アトミック・システム』を発表、内容はトロルスとしては初めて全編に統一感がある明快なプログレッシヴ・ロックで国際デビュー作となったが、代表作3作取ってもこんな感じなのだ。これでは全アルバムを集めて楽しめるバンドかわからない。
*
 テクニックが売りのバンドではないが、ニュー・トロルスはテクニックは抜群で、イタリアのバンドはさすがの音楽国だけあって演奏技術は水準が高い。ただし上手すぎて縦線(楽譜の小節の長さ)はエモーションで合わせるというのがイタリアやフランスのラテン系音楽にはあり、ドイツ系のクラシックや英米音楽のメトロノーム的リズムに合わせるのは不得意みたいだ。ニコやヴィットリオもユニゾンならいいが、ソロになると当時のロック・ギター早弾き選手権にも出られる高速フレーズを矢継ぎ早に繰り出すが、字余り・字足らずみたいなビートに乗り損ねた演奏になってしまう。プレミアータやバンコ、アレアはその辺は複雑な変拍子アレンジにすることで音楽的に解決した。イ・プーはヴォーカルを中心にして演奏では冒険せず安定したアンサンブルに集中した。オザンナもニュー・トロルスと同じような激情任せの演奏だが、バンド一丸となって走ったりモタったりする一体感があったのでリズム感の緩さが弱点にはならず、かえってイタリアのロックならではの良さにつながっていた。
 その点トロルスさんは不利だった。プレミアータやバンコ、オザンナはメンバー・チェンジしないバンドだったが、トロルスはメンバー・チェンジが相次いでいたのでメンバー個々の力量や個性は一流でもバンドの一体感に乏しかった。これもニュー・トロルスのアルバムを全作追う気にはなれない理由になる。また他人に訊かれて前記の代表作3枚までは上がるが、その3枚もどれかが決定盤とは言いづらい。『コンチェルト・グロッソ』はいいが他の2枚は全然、とか、『コンチェルト・グロッソ』もいいのはオーケストラと共演したA面だけ、という人が実は多かったりする。『UT』ならB面だけ、とか。『アトミック・システム』は例外的に全編なかなかだが、実質的にヴィットリオだけのトロルスだからだろう。そつない出来だが70点満点で70点という感じで、ニコさんもいて本気で爆発した時のトロルスではない。私見では『UT』B面はニコさんサイドで、リード・ヴォーカルもニコさんが担当している。『大戦争』『パオロとフランチェスカ』『誰が知るか』の3曲で、『UT』A面よりは『コンチェルト・グロッソ』A面が良い。メンバーは一部異なるが、『コンチェルト・グロッソ』A面と『UT』B面の組み合わせだったら文句なしにニュー・トロルスの最高傑作と言えただろう。
 ただそれでもA面とB面は同じバンドか、ひとつのアルバムにこれが同居していて違和感ないか問題にはなるわけで、ニュー・トロルスはそんな性格のバンドだが47年もやってきた。日本公演にも一昨年やってきた(再結成オザンナとの対バンで)。案外イタリアのロックのおおらかな魅力を体現しているのは、他のどの一流バンドよりもニュー・トロルスなのかもしれない。