人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(44)

 チャーリーと向かい合ったスヌーピーはしばらく後手(前肢)でにやにやしていましたが、嘲るように落としていた腰をきっと伸ばすと、片足(後肢)を引いてファイティング・ポーズを取りました。チャーリーは思わず半歩しりぞいて身がまえましたが、考えてみれば犬のパンチなどくらったところで顔面以外は大したことないのです。顔面ならばさすがに感覚器官や口元を狙われればそれなりに応えますが、体重・体格差や筋力を比較しても正攻法の攻撃ならスヌーピーからチャーリーがそれほどのダメージを受けるとは思えず、またスヌーピーは人間相手に犬属特有の攻撃、それは瞬発力を利用した爪と牙による猛攻ですが、それらを人間相手に仕掛けるには、スヌーピーは多分に坊ちゃん育ちすぎました。彼ら愛玩動物には愛玩動物三原則というのがあるのです。
・その1、愛玩動物は人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
・その2、愛玩動物は人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が、その1に反する場合は、この限りでない。
・その3、愛玩動物は、前掲その1およびその2に反する恐れのないかぎり、自己を守らなければならない。
 これはつまり、人間と愛玩動物という主従関係で書かれていますが、
・安全(人間にとって危険でない存在)
・便利(人間の意志を反映させやすい存在)
・長持ち(少々手荒に扱ったくらいでは壊れない)
 という、家電製品に代表される道具一般にも当てはまる法則であることは少し考えればわかります。また、もっと広げれば人間の道徳律にも当てはまることでしょう。ただし国際法では、生きるか死ぬかの条件下では他人を見殺しにするのは罪にはなりません。これは船舶事故などでは避けがたいことなのです。また、人間の道徳律の場合でも、封建的な伝統のもとに主従関係が美化された社会では、
・安全(ご主人様にとって危険でない存在)
・便利(ご主人様の意志を反映させやすい存在)
・長持ち(少々手荒に扱ったくらいでは壊れない)
 と置きかえることができ、これは雇用者や世帯主にとって都合が良い上に、主君へのための自己犠牲という美談すら派生させます。
 忠臣蔵……とボーくんは呟きました。みんなはハッと振り向きました。