人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(67)

 イヤあーッ!とネネちゃんは嫌悪の悲鳴をあげました、今日のお弁当袋マサオくんのとかぶってる!いいじゃないか、と風間くん。でも何でマサオくんとなのよ!とネネちゃん。カバンに制服、それに年齢までかぶってますナア、としんのすけ。それは仕方ないでしょッ!
 ひどいよネネちゃん、ぼくだって……と早くもべそをかくマサオくんの肩に手を置いて、ボー、とボーくんは慰めました。何よっ、あんたも私とかぶってイヤだって言うの、マサオくんのクセに!マサオくんだってわざとじゃないんだよ、と風間くんがとりなしましたが、ネネちゃんの怒りは消えません。やれやれ、困ったおジョーさんだナ、としんのすけは両方の手のひらを肩の高さまで上げてあごを振り、お手上げのジェスチャーをしました。
 無垢なる者には罪はない、と教義に説く宗教は多いけれど、と私は少女をす巻きにしながら(なぜならこれから通る隠し通路はいつでもひどく冷え込むからです)、ええと、この状態で寝袋に入れれば二人で運びやすいんじゃないかな。うん?宗教がどうしたって?過失はこの子の方にあるのかもしれないよ、そしたら私たちは今正しい判断をしているのだろうか、子どもがむごい姿で現れたから(しかもいとけない少女だから、と私はつけ加えました)、私たちは疑問も抱かず献身的になっているが、それが果たして良い結果を招くか?
 それなら今からこの子を裏口からでも放り出すかい?と私は肩をすくめました。何もこれは特別な施しをしてあげているとは思わないよ、ごく自然なことだ。放っておいたら命に別条があるかもしれない相手を見殺しにはできない、というだけのことじゃないか。
 だが今誰かが訪ねてきている。親兄弟かもしれない。警察かもしれない。ああそうだね。だから、と私は言いました、私たちは無関係であるとだけ主張して、やってきた誰かに事情を訊くのも手だろう。だけどそれが悪人だったら?しかしそれが善意の迎えだったら?
 論議しながら、おそらく私たちは二人とも不思議な既視感を感じていました。そうゆうことなんだゾ、としんのすけは腰に手を当ててえっへんの姿勢になりました。何がだよ、しんのすけ、と風間くん。かぶっているのはお弁当袋だけじゃないゾ、何から何までだゾ、としんのすけは悟ったような口をききました。
 その頃チャーリーはというと、無言でスヌーピーとにらみあいを続けていました。嵐の吹く暗い夜でした。