Atoll - Musiciens-Magician (Eurodisc, 1974)
Atoll - Musiciens Magician (Eurodisc, 1974) Full Album : https://youtu.be/zOEviN6nUDA
Released Eurodisc 87 008 ,1974
(Side A)
1. L'hymne medieval - 3:10
2. Le baladin du temps - 11:23
-L'arpege philosophal
-L'incube
-L'arpege philosophal
3. Musiciens-magiciens - 3:45
(Side B)
1. Au-dela des ecrans de cristal - 5:29
2. Le secret du mage - 2:55
3. Le berger - 3:50
4. Je suis d'ailleurs - 8:15
Total Time: 38:47
[Bonus tracks] (unreleased live recorded at Metz,06.21.1973)
1. Au-dela des ecrans de cristal - 4:30
2. Fille de neige - 6:48
3. Je fais un reve - 3:34
4. Musiciens-magiciens - 4:40
[Personnel]
Andre Balzer - lead vocals
Luc Serra - guitars, synthesizer, percussion
Jan-Luc Thillot - bass
Michel Taillet - keyboards, percussion
Alain Gozzo - drums, percussion
("Musiciens-Magicien"LP Liner Cover)
これがフランスの70年代ロックの代表的バンド、アトールのデビュー・アルバムで、日本発売されたのは75年のセカンド・アルバム『組曲「夢魔」』(たしか79年発売)からなのだが、アトールについて調べてみたらLPもCDも本国フランス盤以外には日本盤しか国際リリースされていないのが判明した。アトールの全4作『ミュージシャンズ・マジシャン』『組曲「夢魔」』L'aralgnee-Mal(1975)、『サード』Tertio(1977)、『ロック・パズル』Rock Puzzle(1980)はキング・レコードのヨーロピアン・ロック・コレクションのシリーズでアナログLP~CDとロングセラーを続けた。
1989年にはキング・レコード制作でアルバム『オーシャン』L'oceanを発表(逆輸入のかたちでフランス盤もリリース)。これは『組曲「夢魔」』から加わった2代目ギタリスト、クリスチャン・ベア以外は全員新メンバーだったが日本では好評で、同年のうちに新生アトールの初来日公演が行われたが(1994年にアルバム化)、それ以降は長い沈黙に入った。だが2003年には『大地の轟き』J'entends gronder la Terreをリリースし、オリジナル・ヴォーカリストのアンドレ・バルゼーがリーダーとなって制作された2014年の新作"I Hear the Earth"を受けて2015年春には来日公演を行っている。
70年代半ばのフランスのロック・バンドの人気投票ではアンジュがぶっちぎりのトップで、2位はアンジュの半分の獲票数でマグマという感じだったらしい。アトールはレコード・デビュー前からアンジュの前座に起用され、大所帯のマグマのメンバーたちとはよくセッションして親しかった。1975年にはローカル・シーンからピュルサーがアルバム・デビューし、これは結成10年目でようやく実現したアルバムで、72年結成のアトールより下積み時代が長い。ピュルサーのデビュー・アルバムは好セールスを記録し、ライヴの動員力ではアンジュ、ピュルサー、アンジュの順だったとピュルサーのメンバーがいうのもフカシではないらしい。ピュルサーもアルバム3枚しか残せなかったバンドで(後で演劇用アルバムが発掘され、解散10年後と2012年に散発的に一時的再結成アルバムが出るが)、リーダー以外は息子世代をメンバーとはいえ今でも現役のアンジュやマグマは例外中の例外で、フランスでは自国の純ロック・バンドはきびしいのがわかる。
アンジュやピュルサーと同時期の日本のプログレッシヴ・ロック・バンドというと四人囃子やコスモス・ファクトリーがいるが、20代までなら実家の仕送りに頼ってでも意地で続けられるがそれも限界がある。70年代には日本のロックでもロックだけやって生計を立てているミュージシャンなど誰もいなかった、という証言がある。フランスでも同様だっただろう。しかしどうでもいいような音楽しかやらないバンドがやたらと多数、商売になっている現在とどっちが良いのかはわからない。
アトールはギタリストがクリスチャン・ベアに交替し、ベアと同じバンドからヴァイオリン奏者が加入したセカンド『組曲「夢魔」』が傑出しているため、ヴァイオリン奏者が抜けたがバルゼーのヴォーカルの比重が増した『サード』は『組曲「夢魔」』に次ぐ評価を受け、さらに時代柄タイトなハード・ロック化が進んだ『ロック・パズル』も『サード』の延長にあるとして好意的な評価を受けている。何しろ本国フランス以外で唯一アトールのアルバムがプレスされている国で、しかもフランスで再発売された回数より日本盤の再発売の方が多いほど日本のリスナーに愛されているのだ。
デビュー作はバンドの創設メンバーだったリュック・セラがギタリストなのだが(それと、このデビュー作にはセカンド以降と違ってソングライター・クレジットがないから作曲の貢献度も不明なのだが)、それも先入観になって『ミュージシャンズ・マジシャン』はアトール全4枚で注目度が低い。アトールはフランスのイエスという触れ込みでセカンドが日本に紹介され、全然イエスに似ていないじゃないか、でもすごくいいぞとフランスのロック・バンドとしては珍しい高セールスを記録したのだが、イエスもサード・アルバムからギタリストがオリジナル・メンバーのピーター・バンクスから光輝くスティーヴ・ハウ様に替わり、4作目の『こわれもの』でキーボードがトニー・ケイから悪趣味マントのリック・ウェイクマンに替わって大化けしたバンドだった。悪い意味で、そういうところがイエスに似ているんじゃないか、という先入観を持たれてしまった。
ハウ様やウェイクマンは確かに素晴らしく、特にハウの作曲・アレンジ力でイエスは一変したのだが、ピーター・バンクスがギターの初期2枚、トニー・ケイがキーボードの初期3枚を聴いてもバンクス、ケイはベスト・プレイでやはり並みのバンドとは水準が違う。それはアトールのデビュー作でも言えて、リュック・セラのギターはデビュー作きりで脱退したのが惜しまれるほど力強い。また、フランスのイエスというのはこのデビュー作を聴くとなるほどね、と納得する。イエス最大の武器はクリス・スクワイアのラウドなベースと三声のヴォーカル・コーラスだが、デビュー作のアトールはベースとヴォーカル・コーラスを軸に作曲・アレンジを組み立てている。
初の日本盤『組曲「夢魔」』が出た時、すでにアトールは3作目まで本国でリリースしていたわけだが、デビュー作『ミュージシャンズ・マジシャン』~『組曲「夢魔」』~『サード』と聴くとこれはフランスのイエスだな、というのは的を射た評価で、いちばんインパクトの強い『組曲「夢魔」』から日本発売しよう、というのも正解だった。ただ、『組曲「夢魔」』が初アトールだとどこがイエスだよ、ということにもなる。オリジナル・アトールの全4枚ではデビュー作を最後にまわす人が多いと思うが、その分予想以上の充実した内容に喜ぶことになる。この先もアトールは日本でだけ高い人気を保ち続けることになるのだろう。