人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

新☆戦場のミッフィーちゃんと仲間たち(63)

 乳母車が波打ちぎわに横転していました。岩場には海の生物はおらず、どろどろのオイルが浜辺に打ち寄せていました。水槽がでかくなると当然、水圧も上がっていくからね、とメラニー、水槽も数十cmの厚さのガラスを使わなけりゃならない。もっともそれは水族館の話で、ガラスは透明度は高いし浸食性には強いけれど、他人に見せる必要なんかなければもっと安い素材で強度の高い隔壁は作れる。浸食性については、もろくなってきたらその都度もろい箇所を補修すればいい。そうやってきたない海ときれいな海の境界は引かれてきた。私たちの商売はそういう種類のものよ、とメラニーマイメロディに説明すると、こんな遠まわしな説明じゃどんなに言っても意味をなさないんだろうな、と思いました。
 マイメロは真面目な顔で聞いているようでしたが、基本的に愛玩動物は無表情なので黙ってさえいれば真面目に見えるのです。マイメロ愛玩動物ですらなく愛玩動物を模した無生物でしたから、真面目さもいっそう真剣に見えました。また、マイメロは無生物である分、生存条件に限界を持たざるをえない生き物一般よりも各段に一貫性には無責任でいられましたから、真面目に聞いているのは何ひとつ真面目に聞いていないのと大差のないことでした。唐突にメラニーにバカじゃないの?と返事を返してもマイメロとしては普通の反応にすぎませんし、通常言われる意味ではマイメロディは思考しない、というか、思考力自体がマイメロの本質に備わっていないのです。
 ところであんた、とメラニーは化粧室で言いました、お店とはいえ室内なんだからね、ずきんくらい取りなさいよ。みんな……つまりアギーやバーバラ、ウインはびくっとして動きを止めました。実はマイメロのずきんはバイトの面接直後から話題、というか問題になっていたのです。あれはどうなんでしょうね、うちの店にはこれという服装規定はないけどね。髪が落ちないようにと言うなら衛生的な理由もあるし……バイトだからってそれは止めなさい、と言うのはパワハラにならない?
 そんなふうに店の仲間たちでもマイメロのずきんについては不文律になっていたのです。しかしついにメラニーが言ってしまいました。言うとしたらメラニーだろうな、という期待感と不安感がミッフィー・ディヴィジョンの誰にもあり(ミッフィーを除く、メラニー本人を含む)ついにそれが実行された、というだけでもあります。