Vashti Bunyan - Just Another Diamond Day (Philips, 1970)

Recorded December 1969 at Sound Techniques, London.
Released Philips 6308 019 UK, 1970
All songs written by Vashti Bunyan, except where noted.
(Side 1)
A1. Diamond Day - 1:47 (00:00)
A2. Glow Worms - 2:16 (01:47)
A3. Lily Pond - 1:24 (04:03)
A4. Timothy Grub - 3:15 (05:27)
A5. Where I Like to Stand (Bunyan/John James) - 2:21 (08:42)
A6. Swallow Song - 2:16 (11:03)
A7. Window Over the Bay (Bunyan/Robert Lewis) - 1:47 (13:19)
(Side 2)
B1. Rose Hip November - 2:27 (15:06)
B2. Come Wind Come Rain - 2:07 (17:33)
B3. Hebridean Sun (Bunyan/Lewis) - 1:13 (19:40)
B4. Rainbow River - 3:22 (20:53)
B5. Trawlerman's Song (Bunyan/Lewis) - 1:56 (24:15)
B6. Jog Along Bess - 3:36 (26:11)
B7. Iris's Song for Us (Bunyan/Wally Dix/Iris Macfarlane) - 1:33 (29:47)
(Bonus tracks) :
01. Love Song (B-side to 1966 single Train Song produced by Peter Snell) - 1:58 (31:20)
02. I'd Like to Walk Around in Your Mind (an unreleased 1967 Immediate Records acetate produced by Mike Hurst) - 2:15 (33:18)
03. Winter is Blue (an unreleased acetate from 1966, different from Tonite Let's All Make Love in London version) - 1:48 (35:33)
04. Iris's Song Version Two (Bunyan / Wally Dix / Iris Macfarlane) (a 1969 alternative version from John Bunyan's tape) - 2:31 (37:21)
05. Somethings just stick in your mind (extra track) - 2:15 (39:52)
[Personnel]
Vashti Bunyan - vocals, acoustic guitar.
Christopher Sykes - piano, organ.
John James - dulcitone.
Robin Williamson - fiddle, whistle, Irish Harp. (B1,B6)
Dave Swarbrick - fiddle, mandolin
Simon Nicol - banjo (A5,B2,B7)
Mike Crowther - guitar. (03)
String and recorder arrangements by Robert Kirby (A1,A6,B4)
Produced by Joe Boyd.

プロデューサーのジョー・ボイドによるオリジナル・ライナーノーツの前半は、「このアルバムは1年半に渡るヴァシュティとロバートとベス(馬)、ブルー(犬)の巡礼の記録で、彼らはロンドンから古い緑色の荷馬車で旅立ったのだった。冬の途中で立ち往生した彼らを友人のひとりが一時的にロンドンに呼び戻したこともあった。それがぼくだった。思い出せるだろうか?もちろん覚えている。ぼくは3年前に詩の朗読会の席上で彼女が歌うのを聴き、その繊細な美しさにその場で溶けてしまったのだった。ぼくは説得に応じない彼女にレコード制作を懇願しては失敗したが、彼女は別のやり方でレコード制作に向かった。彼女の北国行きまではそれがわからなかった」とある。後半は短い解説で、「ヴァシュティの曲は都会生活者には現実感がないかもしれない、が、聴く人の気持と心を開かせてくれる。ぼくはこれほど完全に音楽に生き方と精神を反映させた人を他に知らない」と結んでいる。これが全文で、短い上に平易なライナーノーツで良かった。
ジョー・ボイドは60年代末のイギリスのポピュラー音楽界でも見識があって趣味が良く、意欲的かつアーティストを大事にした、音楽ビジネスではめったにいない良心的なプロデューサーとして有名だが、ボイドが商業的成功を度外視して、おそらくアルバム制作準備期間の経済的援助まで個人的にして手がけたのがこの、長年に渡ってヴァシュティ・バニヤン(1945~)唯一のアルバムだった『ジャスト・アナザー・ダイアモンド・デイ』1969だった。

アルバム発表は70年の年末になったが、ヴァシュティは少ないインタヴュー取材に応じただけで、プロモーションのためのラジオ・テレビ出演や、ツアーどころか単発ライヴすら行わず一家(ご主人と幼児のご子息がいた)で再び放浪の旅に出てしまう。アルバムを制作した時点でミュージシャン引退は決定しており、最初で最後のアルバムがヴァシュティにとっては引退作として作られたものだった。
新聞や音楽誌には好意的なアルバム評が掲載されたが、ヴァシュティは音楽活動から完全に退き、2000年に初めて再発売されるやいなや古典的評価が確立した『ジャスト・アナザー・ダイアモンド・デイ』の好評と復帰を求める声から復帰作『Lookaftering』(Fat Cat Records 2005)を発表し、以降は活発にライヴ活動を行いながら初期シングル集『Some Things Just Stick in Your Mind ? Singles and Demos 1964 to 1967』(Fat Cat Records/Spinney Records 2007)、復帰第2作『Heartleap』(Fat Cat Records 2014)とマイペースな活動をしており、アルバムもライヴも好評で、『Heartleap』発売に伴って2015年にも来日公演を行っている。

ヴァシュティ・バニヤンは『遍路歴程』のジョン・バニヤンから芸名をとった女性シンガーで、ジョン・ラスキン美術学校で学び、18歳(1964年)にニューヨーク旅行したおりボブ・ディランの『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』に決定的な衝撃を受けてプロのシンガー・ソングライターとして活動を始めた。ヴァシュティはローリング・ストーンズのマネージャー/プロデューサーのアンドリュー・オールダムに目をつけられ、マリアンヌ・フェイスフルに続くアイドル歌手系フォーク・ロック・シンガーとしてデビューする。
ヴァシュティのデビューに当たっては、マリアンヌの『アズ・ティアーズ・ゴーズ・バイ』同様、ミック・ジャガー&キース・リチャード共作の『サム・シングス・ジャスト・スティック・イン・ユア・マインド』が提供された(同曲のミック歌唱版デモ・ヴァージョンはストーンズのレア・トラック集『メタモルフォーセズ』で聴ける)。だがデビュー曲は結局、鳴かず飛ばずに終わってしまう。

1965年のデビュー・シングルがデッカから発売された後、1966年にはコロンビアからシングル発売。1967年にはドキュメンタリー映画『愛と幻想の一夜』のサントラに参加、とぱっとしない音楽活動が続き、プロデューサーのジョー・ボイドとの出会いは1968年のことだった。すでにヴァシュティは音楽活動からの引退を考えており、ボイドの勧めでアルバム制作を決意した時、ヴァシュティは1年以上の巡礼によって新曲を用意する、という理解を得るには難しい条件をボイドと結んだ。ボイド以外のプロデューサーでこんな法外な企画を許した音楽関係者はいなかっただろう。
しかも発表と同時に引退、というデビュー・アルバムなど常識では考えられない。このアルバムもまた80年代には伝説的名盤となっていたが、1970年のイギリス本国での初回プレス以来一度も再発売されないまま、2000年に奇跡的に初CD化されて絶賛を浴びることになった。CD化直前までオリジナルLP盤は2,000ドルのプレミアがついていたという。聴くことすら難しかった幻のアルバムが今では携帯電話からでも簡単に試聴できてしまう。しかし、この音楽は、身銭を切って買ったCDで聴かないと右から左へ抜けて行ってしまうと思う。正直言ってこのナイーヴすぎる音楽は、30歳を越えたリスナーにはつらい感がある。