人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

魍猟綺譚・夜ノアンパンマン(44)

 いや、仮にあの乳頭が大きさに見合っただけの乳汁を出したとしたら、牧畜的な価値があるかもしれないぞ、としょくぱんまんは思いました。得体の知れない生き物の乳など自分たちで飲むのは願い下げだが、出所をごまかして加工乳にして売ればいい。通常乳腺は乳房に広がっているのだが、これだけ巨大な乳頭なのなら乳腺の末端部分だけでも人なら何十人、牛なら数頭分に値する乳腺くらいは組織の中に含んでいるだろう。せっかく縛りつけられているんだから、搾ってみればいいのになカレーパンマンのぼけなす、としょくぱんまんは思いましたが、立場が逆だったらしょくぱんまんだってそんなことは断固として拒絶したでしょう。ぼくのまっ白な顔や服装を変なミルクでよごすのは嫌です。ミルクだって食パンだって大して変わらないじゃないか、とカレーパンマンは言うでしょう、おれから見れば食パンよりミルクの方がよっぽど白く見えるぜ。
 それは偏光因子の相違によるものです、としょくぱんまんは答えました。しかしいろんなパンを作るにはミルクだって必要にもなるからねえ、と困り顔のジャムおじさん。粉末ミルクを使えばいいじゃないですか、あれならこぼれないし、保存もききますし。アンパンマンもそう思うだろ?突然自分に話が振られたので今夜のおかずは何にしよう、とグラビアアイドルに思いをめぐらしていたアンパンマンはついヘアヌード?と疑問を口にしてしまいそうでしたが、なぜヘアヌードを連想したのか自己分析してみると直前の「こぼれないし、保存もきく」というしょくぱんまんの言葉になぜか「ヘアヌード?」と思いついたのだ、と気づいて軽い衝撃を受けました。なぜならアンパンマンはこれまでいちどもヘアヌードをありがたく思ったことがなかったからです。なるほどね、としょくぱんまんは言いました、きみにとって白さの問題は(とやたらと白さにこだわるしょくぱんまんにも問題がありますが)アンダーヘアの有る無しと同程度でしかないんだね?
 しょくぱんまんさまが正しいわ、とドキンちゃんが言いました。あそこの毛なんて生えていてもいなくてもどうでもいいのよ。はいはい、とばいきんまんは、しょくぱんまんパン工場に帰ってこないと次の作戦に移れないのに気づき、しょくぱんまんからの監視カメラ傍受を遮断しました。これでしぶしぶしょくぱんまんも、パン工場の様子を確かめに帰らないわけにはいかなくなるはずです。