人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

魍猟綺譚・夜ノアンパンマン(42)

 カレーパンマンは考えれば考えるほど、状況を整理して把握することが困難になってきましたが、ふとひらめいて慌てて打ち消したのが、ジャムおじさんばいきんまんが実は裏で手を結んでいるという可能性でした。
 まさかそれはないだろう、とカレーパンマンは疑惑を追いやりましたが、最悪の可能性の有無は意識的に打ち消そうと決定的に気分を左右してしまうので、たぶんおれと同じ立場で去就を問い詰められているのは他にはしょくぱんまんだけ、ということだな、とカレーパンマンは普段はあまり感じない、アンパンマンが間にいてこそ成り立っていた3人組でしたからそれまで直接的には希薄だった同志的感情が、やにわにしょくぱんまんに湧いてくるのを感じました。それは同じ困難に直面したものどうしの仲間意識でもあり、カレーパンマンはすでに拘束監禁され、しょくぱんまんパン工場の惨状を知らされずに外回りに出されている、という時間差で降りかかる罠ゆえでした。
 でもぼくはパン工場が今どんなことになってしまったか知っているわけだし、としょくぱんまんは、改造カーナビをモニターにばいきんまんの監視カメラ映像を傍受しながら、カレーパンマンへの盟友感や共闘意識は少しもない、高みの見物の立場にいました。いっそこのままトースター山のふもとの食パン工場を本拠に、ジャムおじさんパン工場のメンバーからは独立したっていいのです。カレーパンマンと違うのはそれだけではなく、しょくぱんまんアンパンマンの部屋のあの乳頭がアンパンマンのなれの果てであってもおかしくない、と柔軟に事態を受けとめていました。
 もし一連の騒動がすべてばいきんまんの仕業だとすると、ばいきんまんなりに一貫した手口と目的があってしかるべきだというのが犯罪心理学的な視点からの分析になりますが、仮にアンパンマン本人をあのような姿に変えるか、またはデコイだとしても、乳頭である必然性がまったくない。さらにジャムおじさんたちに入れ替わってしょくぱんまんカレーパンマンをだまし、しょくぱんまんを外回りに出しカレーパンマンを乳頭に緊縛拘束する。本物のジャムおじさんたちは別室に監禁されている。
 ばいきんまんとしては手際が良すぎる上に、あまりに何をしたいか首尾一貫を欠いている。現にばいきんまんは監視カメラの電波をぼくが傍受していることを知っている。そしてジャムおじさんだけがいい思いをしているのだ。