人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン・改(29)

 ロッキー・マウンテン・オイスターとは、主に雄牛の睾丸を食材とする料理です。豚や羊の睾丸を使った料理もこの名で呼ばれることがあります。睾丸の皮を剥いて、小麦粉と塩胡椒をまぶして油で揚げるのが代表的な調理法です。揚げる前に叩いて伸ばす調理方法もあります。珍味とされ、前菜としてカクテルソースにつけて食べるのが一般的です。アメリカ合衆国西部とカナダ西部のうち、牧畜が盛んで牛の去勢が多く行われている地域の伝統料理であり、その話題性から広く知られています。カナダではプレーリー・オイスターと呼ばれ、デミグラスソースをつけて食べるのが一般的です。またオクラホマやテキサス最北部では特に仔牛の睾丸から作られたものをカーフ・フライ(仔牛のフライ)と呼ぶことがあります。
 またロッキー・マウンテン・オイスターは、仔羊の睾丸を用いたラム・フライ(仔羊のフライ)と混同されることもあります。この他にもカウボーイ・キャビア、モンタナ・テンダーロイン、ブル・フライ(雄牛のフライ)、スウィンギング・ビーフ(ぶらぶらする牛肉)など数多くの別名が知られています。
 ロッキー・マウンテン・オイスターは元来カウボーイ文化の一部だったとされています。伝統的には、牛の放牧期間の終わりに行われるラウンドアップ(駆り集め)で大規模な去勢が行われ、大量に集められた睾丸が労働後のパーティで食べられていました。当時は手のこんだ調理はされず、睾丸を皮つきのまま焼印用の炉で焼き、皮が弾けたところを「新鮮なイチジクのように」食べることが多かったといいます。現在では、この料理を看板とする料理店やバーのほか、フェスティヴァルや牧畜を営む家庭で主に食べられています。軽食のバラエティの一つとしてロッキー・マウンテン・オイスターを販売するチェーン店のように、有名なイベント会場でこの料理を手軽に提供する業者もあるほどです。アイダホ州イーグルでは「ワールズ・ラージェスト・ロッキー・マウンテン・オイスター・フィード」という催しが開催され、毎年数千人の参加者を集めています。
 本来、家畜の睾丸を切除する第一の目的は食用ではありません。畜産では、去勢には繁殖を制限するためや骨格筋の肉質を改善するため、また気性を和らげるためなどさまざまなな目的から広く行われています。ロッキー・マウンテン・オイスターは大量牧畜の副産物として生まれた食文化と言えるでしょう。