人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

某通販サイトへのDVDユーザーレビュー

 この「超高画質名作映画シリーズ」は台湾のメーカーの製品のようで通販価格999円の廉価版は嬉しく、ラインナップは魅力があるパプリック・ドメイン・クラシックが揃っており、字幕の訳もなかなかこなれています。私はサイレント5作『ロイドの要心無用』『キートンの西部成金』『キートンのカメラマン』『裁かるるジャンヌ』『カメラを持った男』、30~40年代作品では『新学期・操行ゼロ』『ぼくの伯父さんの休暇』を購入しました。DVDケースは安物のペコペコですが、トーキー作品の『操行ゼロ』『ぼくの伯父さん~』は問題ありません。ですがサイレント作品は痛し痒しです。まず驚いた事に、この5作は音楽が全部共通です。シーンの切り替えも関係なく無神経に、昔のファミコンみたいな音楽が延々と流れています。コメディやドキュメンタリーの『カメラを持った男』はともかく『裁かるるジャンヌ』など最悪です。購入するなら音楽は消して鑑賞する前提しかありません。絶対に親しい方へのプレゼントにはできません。

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●『要心無用』(タイトルが誤植されています。「要心」です)は某メーカーI*Cのパプリック・ドメイン60分版ではなく、2008年のユニヴァーサル・ジャパン(正規ライセンス、廃盤)の73分版と同尺の全長版です。言わずもがなのロイド最高傑作で、パプリック・ドメイン版はI*C社版の使用原盤が良くないので、ロイド自身のタイム・ライフ社がユニヴァーサルに提供した正規ライセンス版とは比較になりません。

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●『西部成金』は日本語字幕版初DVD化で、某メーカーI*Cのキートン・ボックス(これもパプリック・ドメイン版)にも未収録、バラ売りでも出なかった、唯一日本語字幕版DVDのなかったサイレント期のキートン長編で、最高傑作の一つです。キートン作品もパプリック・ドメイン版のI*C社版の使用原盤はくたびれた上映用プリントでした。『カメラマン』も同様ですが、I*C社は日立系の正規メーカーだけあって音楽はそこそこ映画に合わせた演奏をつけられています。

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●『裁かるるジャンヌ』は96分・デンマーク語版で、この版は2005年の紀伊國屋書店版、2012年の英EUREKA版(Blu-ray)が既発で、映像ソースとしてはパプリック・ドメインではないレストア版になるはずです。先に触れましたが、ジャンヌ・ダルクの処刑場面までファミコンみたいな音楽を垂れ流しているのは商品以前の問題で、無神経極まります。

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●『カメラを持った男』は2002年の英BFI版(音楽マイケル・ナイマン版)、2015年の米Flicker Alleyジガ・ヴェルトフ作品集版(Blu-ray)があり、両レストア版の版権も『裁かるるジャンヌ』同様でしょう。

●サイレント作品のレストア原盤に既成ソフトからの転用の疑問があるのと同様、ジャン・ヴィゴジャック・タチ作品もともに近年のレストア版からの転用が疑われます。

以上の作品が廉価版で入手できるのは嬉しいことですが、この廉価版で初めてご覧になるのはお勧めできません。このシリーズでプレミア価格がついていたらまたの入荷を待つか、多少プレミアでも正規盤の中古、または正規リリースの輸入盤をお勧めします。サイレント作品は高校英語程度で英語字幕が読めますし、再生環境があればレストア輸入盤の画質は国内正規盤より良好です。パッケージやチャプター画面からも本シリーズは欧米盤レストア版ソフトを原盤に使用していると推測されます。内容を割り切って正価ならともかく、本シリーズは6900円(!)ものプレミア価格で悪質な大量購入転売業者から購入するほどの価値はありません。


(投稿しましたが掲載されませんでした)。