人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

フィル・ウッズ Phil Woods - グッバイ・ミスター・エヴァンス Goodbye Mr. Evans (Enya, 1981)

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フィル・ウッズ/トミー・フラナガン/レッド・ミッチェル Phil Woods, Tommy Flanagan, Red Mitchell - グッバイ・ミスター・エヴァンス Goodbye Mr. Evans (Phil Woods) (Enya, 1981) : https://youtu.be/NXQN2kj7UJw - 7:54
Recorded at Sound Ideas Studio, New York City on January 6th and 7th, 1981
Released by Enya Records as the album "Three For All", Enya 3081, June 1981
[ Personnel ]
Phil Woods - alto saxophone, Tommy Flanagan - piano, Red Mitchell - bass

 この曲をオープニングに収めたアルバム『Three For All』はフィル・ウッズ(1931-2015)、トミー・フラナガン(1930-2001)、レッド・ミッチェル(1927-1992)の共作名義で、ドラムレスのトリオ演奏ですが、アルバムの軽快なオープニング曲「リーツ・ニート」は先週ご紹介しました。このアルバムのクロージング・ナンバーのバラードがこの「グッバイ・ミスター・エヴァンス」で、'80年9月15日にで急逝したピアニストのビル・エヴァンス(1929-1980)に捧げたフィル・ウッズのオリジナル曲です。ウッズはエヴァンスが私淑していた盲目のクール・ジャズ・ピアニストのレニー・トリスターノ(1919-1978)に師事していたこともあり、サハビ・サヒブの『Jazz Sahib』'57を始めミシェル・ルグランの『Legrand Jazz』'58、ジョージ・ラッセルの『New York, N.Y.』'59、ビル・ポッツの『The Jazz Soul of Porgy and Bess』'59、テオ・マセロ・オーケストラの『Something New, Something Blue』'59、ゲイリー・マクファーランドの『Gary McFarland Orchestra』'63、エヴァンス自身のビッグバンド作品『Symbiosis』'74で共演しています。
 さてこのバラード、ソロ・ピアノだけでイントロから1コーラスまでが2分37秒と長い長い。その少し前からベースが入り、ピアノ伴奏のベース・ソロが5分9秒までの1コーラス続きます。そこからようやくベース・ソロとクロスフェイドで3人揃ってウッズのアルトサックス・ソロが始まるので、実働時間からすればフラナガンのピアノは全編、ミッチェルのベースは全編の2/3、ウッズのアルトは全編の1/3しか演奏していないことになります。ここがポップス、ロックからジャズに興味を移したリスナーがジャズのライヴで最初に唖然とするところで、アンサンブル主体のビッグバンドならともかくトランペット、サックス、ピアノ、ベース、ドラムスのモダン・ジャズの標準クインテットの場合まず全員でテーマを演奏しますが、最初のソロがトランペットの場合サックスはトランペット・ソロの間ステージ袖でウンコ座りなどして待機している。サックスのソロになるとトランペット奏者はステージ袖でスタッフと雑談しながら煙草を喫ったりしている。はなはだしくはトイレに立ったり客席に下りてきて一杯やったりしている。トランペットとサックスの順番が逆でもいいですが、先発ソロ奏者は自分のソロのあとはセカンド・ソロ奏者のソロ、さらに管楽器が抜けてピアノ・ベース・ドラムスだけのトリオでピアノ・ソロの間じゃう待機しているので、ピアノ・ソロが終わるとベース・ソロやドラム・ソロがある場合もあれば、ピアノ・ソロの終わりに滑りこんで各楽器で8小節交換、4小節交換のかけあいのインプロヴィゼーションがあり、きりのいいフレーズが出てきたところで曲のメイン・テーマの合奏で終わる(ソロイストが即興コーダを追加する時もある)。基本的にメンバー全員が1曲を通して演奏し続けるポップスやロックのバンドとは発想が違うのです。筆者はギター・トリオ(ギター、ベース、ドラムス)を従えたバンドでアルトサックスのワンホーン・カルテットでアマチュア活動していましたが、ライヴではベース・ソロやドラム・ソロは控えめにしましたが練習では全員がソロをたっぷりとるトレーニングをしていたので、12分前後の曲だと最初4分間吹けばヴァース交換まで5分あまり手持ち無沙汰になるので、管楽器のソロイストとは何と実働時間が少ないものかと面白いものでした。ジャム・セッションでは自分のソロとなると延々音階練習めいたソロを10分以上とるサックス奏者もいるもので、もちろん適度な長さも大切ですがソロには中味がなければなりません。
 フィル・ウッズグラミー賞の常連候補で3回受賞歴があり、ビリー・ジョエルのNo.1ヒット「素顔のままで」のサックスがウッズといえば聴いたことのない中年男女はいないでしょう。そこではウッズはシンプル・イズ・ベストを地でいく素晴らしいオブリガードとソロをとっており、あの曲は管楽器のキーには難しいKey=Dのシャープ系の音列なのですが、ウッズのソロは難なくスムーズで爽やかです。「グッバイ・ミスター・エヴァンス」は意表を突いてピアノから始まりベース、アルトとトリオのアンサンブルが増えていく構成ですが、フラナガン、ミッチェルといった名手が徐々に花道を敷いて真打ちウッズのソロが出てくる、素晴らしいバラード演奏です。ただしライヴでこれをやると、アルバム同様クロージング曲か、アンコール最終曲以外に場所がない不便もあります。1コーラス2分半という超スローテンポのバラード曲なのもカヴァーには不向きで、名曲でこそあれバンド編成によるカヴァーやスタンダード化には向かない曲でもあるでしょう。