人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

カトリーヌ・リベロ+アルプ Catherine Ribeiro + Alps - (リベルテ?) (Libertes?) (Fontana, 1975)

カトリーヌ・リベロ+アルプ - (リベルテ?) (Fontana, 1975)

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カトリーヌ・リベロ+アルプ Catherine Ribeiro + Alps - (リベルテ?) (Libertes?) (Fontana, 1975) Full Album : https://youtu.be/QMBDF1iVa_I : https://youtu.be/AAoDiuMN3Ck : https://youtu.be/k4BcJEiXjBo : https://youtu.be/vi33gXMXm6g : https://youtu.be/gTKi1u0CGxI
Released par Disques Fontana 9101 501, 1975
Les textes sont ecrits par Catherine Ribeiro et mis en musique par Patrice Moullet, sauf indication contraire.

(Face 1)

A1. ある永遠の優しさ Une Infinie Tendresse - 6:02
A2. 中世風の序曲 Prelude medieval - 2:54
A3. 幸福な男の話をしよう Parle-moi d'un homme heureux - 5:19
A4. 終わりの言葉を告げるのは誰? Qui a parle de fin ? - 4:47

(Face 2)

B1. 叙事詩ならざる詩・III~3楽章のアルプ流協奏曲と「投擲」Poeme non epique III, concerto alpin en 3 mouvements et un tombe (Patrice Moullet, Tombe par Daniel Motron) - 22:37

[ Catherine Ribeiro + Alps ]

Catherine Ribeiro - Chant
Patrice Moullet - cosmophone
Daniel Motron - orgue, piano
Henri Texier - basse
Caroll Reyn - percussions

(Original Fontana "(Libertes?) LP Liner Cover, Gatefold Inner Cover & Face 1 Label)

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 今回でカトリーヌ・リベロ + アルプは第6作にして最高傑作『(リベルテ?)』1975をご紹介して一応区切りをつけます。本作でアルプはいったん活動休止し、リベロシャンソン界への参入とともに7作目の『Le Temps de l'autre』1977はアルプのアルバムながらリベロのソロ名義になり、リベロはアルプとは別にシャンソンのアルバムを2枚制作するかたわらアルプと第8作『Passions』1979を送り出しますが、リベロシャンソン歌手活動に専念するために第9作『La Deboussole』を最後にアルプは解散します。リベロ+アルプのアルバムの前期はインディー・レーベルからのデビュー作『Catherine Ribeiro + 2bis』1969と第2作『N゚2』1970、メジャーのフィリップスに移籍後の第3作『立ちすくむ魂(Ame debout)』1971と第4作『平和(Paix)』1972(英語圏でもっとも評価の高いのはこの2作です)、リベロの産休を挟んでロック色を強めた第5作『悪い鼠と田舎の男(Le Rat debile et l'Homme des champs)』1974と本作『(リベルテ?)(Libertes ?)』1975と2作ずつ対になって進展してきましたが、リード・ヴォーカルで作詞家のカトリーヌ・リベロ(1941-)と音楽的リーダーのパトリス・ムレ(1946-)以外のメンバーは流動的で、ベースとドラムスに専任奏者が参加してプログレッシヴ・ロック的完成度を高めた第5作と第6作の本作でアルプの作風は究極を見たとも言えます。リベロのフリーフォーム・ヴォーカリゼーション、パトリス・ムレの手製改造楽器コスモフォン(24弦エレクトリック・ヴィオーレ)とコスモフォン(256音色のエレクトリック・パーカッション)によるアルプのサウンドも本作で究極に達したので、本作にはすでにフランスのジャズ界最高のベーシスト、アンリ・テキシェが参加していますが、第7作~最終作の第9作では一流奏者によるシンセサイザーやエレクトリック・ヴァイオリンの導入とともにコスモフォンとパーキュフォンの使用が激減し、楽曲も整理されたジャズ・ロック系プログレッシヴ・ロックに変化しています。

 演奏面ではアマチュア的な実験的アシッド・フォーク作品の初期4作、ロック的躍動感を高めた第5・6作までがアルプならではの独自性が強く、第一線級のメンバーで固めた後期3作が完成度の高い傑作アルバムとは言え独自性では後退しているのは皮肉ですが、本作が前期アルプと後期アルプの両方に足をかけた最高傑作と言えるゆえんです。ヘヴィ・プログレッシヴ・ロックの名曲A1、リベロのヴォーカリゼーションを堪能できるA2、アルプ最高のハード・ロック曲A3、詩の朗読から壮絶に崩壊するA4と進み、『N゚2』『悪い鼠と田舎の男(Le Rat debile et l'Homme des champs)』に収められてきた「叙事詩ならざる詩(Poeme non epique)」三部曲の掉尾を飾るアルバムB面全面のヘヴィ・プログレッシヴ・ロック組曲B1と展開する本作の構成・完成度は楽曲の多彩さと質の高さ、構成の見事さで文句なしに前期6作の最高峰と言えるもので、大作「叙事詩ならざる詩」を別格とすれば本作のA1、A3はアルプのロックでは最高のダイナミックな演奏と歌が聴ける名曲です。ゴングの『You』1974やマグマの『Live』1975、アンジュの『Tome VI』1977と並び、ピュルサーの『Halloween』1977やアトールの『L' Araingnee-Mal』1975、ワパソーの『Ludwig』1979やエルドンの『Stand By』1979をしのいで、フランス'70年代ロック最高の名盤に数えられるものです。

 これにつけ加えるほどもありませんから、本作についてはフランス語版ウィキペディアアメリカの最大の音楽サイトallmusic.comから『(Libertes?)』の項目を翻訳して上がりにします。おおむね妥当な記述ですし、本作について書くと贔屓の引き倒しで収拾がつかなくなりそうでもあります。先にフランス語版ウィキペディアから翻訳を載せ、後にallmusic.comからの翻訳を載せます。全曲YouTubeで試聴できるとはいえボックス・セット以外での単品ではCDでも30年近く廃盤のままの本作をご推奨するのは申しわけないのですが、フランスのロックでも5指には入るアルバムですから、中古盤を廉価で見かけたらぜひお薦めします。ベースにアンリ・テキシェが入った、アルプ史上最強メンバーが揃ったアルバムでもあります。一生聴けます。ちなみに「リベルテ」は「自由(言論)」の意味ですが、サルトル編集主幹で創刊の、フランス最高の権威を誇るインテリ新聞の名称でもあります。『(リベルテ?)』というアルバム・タイトルにはそういう皮肉がこめられているのを念頭に置かれてください。

◎フランス語版ウィキペディアより
 アルバム『(リベルテ?)(Libertes ?)』はカトリーヌ・リベロ + アルプの1975年作品になる。
[ 特色 ] この作品でアルプのサウンドは以前よりエレクトロニクスを取り入れ、よりロック色を強めたことで力強いアルバムになった。A4「終わりの言葉を告げるのは誰? 」は最後の40秒までは詩の朗読による。アルバム最大の聴きものがB面全面を使った「叙事詩ならざる詩・III」なのは疑う余地はない。歌詞は全編に渡って当時のフランス政府の与党政権の政策を容赦なく批判しており、大手フィリップスの契約アーティストだったリベロ+アルプが、このアルバムでは特別に小規模なサブ・レーベルのフォンタナからの発売になったのは、内容の反体制性によるものと思われる。
[ 評価 ] この『(リベルテ?)』は、現在も刊行中のフィリップ・マヌーヴ叢書に収められた『ジョニー・アリデイからBBブリュンヌ(BB Brunes)まで~フランスのロック(Rock francais)特選アルバム123枚』(2010年刊行)に選出されている。
(以上全訳、曲目リスト割愛)

◎allmusic.comより
[ カトリーヌ・リベロ『(リベルテ?)(Libertes ?)』] ★★★★
評=ロルフ・セムプレボン
 この『(リベルテ?)』も初期のカトリーヌ・リベロ+アルプ作品の延長線にあるアルバムだが、これまで以上にロックのアルバムとして強力になっているのはベースとドラムスがサウンドの中心で存在感を示しているからで、その分バンド全体のアンサンブルはより奔放になっており、初期作品の宇宙空間的サウンドはむしろ強化されている。アルバムB面を占める「叙事詩ならざる詩・III」は海鳴りのようなドラムスの乱打と溢れ出すようなキーボードの不規則な嵐を背景に、時には激昂し、時には激しく沈む込むリベロの力強いヴォーカルが強烈な感情をサウンドともども緩急自在に訴えかけてきて、この大作はリベロが絶叫する絶望的な結びの歌詞を受けて、高まったフラストレーションが解消されないまま意図的に居心地悪く終わる。他の曲では、ロックな「幸福な男の話をしよう」、スローテンポで始まり不吉な変拍子に展開する「ある永遠の優しさ」があり「中世風の序曲」も同傾向だがこちらは歌詞なしのヴォーカリゼーションで、リベロの得意な手法だろう。 アルバム収録曲全体が、アルプ初期のコズミック・フォークからプログレッシヴ・ロック・スタイルに変化しているが、リベロのヴォーカルとアルプのサウンドはここでも最高の一体感を見せる。初期アルプを期待するリスナーには、無伴奏がほとんどを占めるリベロのポエトリー・リーディング曲「終わりの言葉を告げるのは誰?」が収録されている。
(以上全訳、曲目リスト割愛)

(旧稿を改題・手直ししました)