サイモン&ガーファンクル Simon & Garfunkel - 冬の散歩道 A Hazy Shade of Winter (Paul Simon) (Colubia, October 1966) : https://youtu.be/coKMcGqGnPY
この曲はサイモン&ガーファンクルのサード・アルバム『パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイム(Parsley, Sage, Rosemary and Thyme)』制作中のセッションで録音され、同アルバムには収録されずシングル独自の楽曲として1966年10月24日に同アルバムと同時発売されたものです。『パセリ・セージ~』は全米アルバム・チャート最高位4位のヒット作になりましたが「冬の散歩道」はシングル・チャート最高位13位にとどまり、『パセリ・セージ~』収録の代表曲「スカボロー・フェア/詠唱(Scarborough Fair/Canticle)」「早く家へ帰りたい(Homeward Bound)」「59番街橋の歌 (フィーリン・グルーヴィー)(The 59th Street Bridge Song (Feelin' Groovy)」「エミリー・エミリー(For Emily, Whenever I May Find Her)」などの方が高い人気を博しました。サイモン&ガーファンクルは次作の映画サウンドトラック・アルバム『卒業-オリジナル・サウンドトラック(The Graduate)』(Colubia, February 1968)を全米アルバム・チャート最高位1位に送りこんだあと、本格的な第四作目のアルバム『ブックエンド(Bookends)』(Colubia, April 1968)を発表、「冬の散歩道」は『卒業-オリジナル・サウンドトラック』収録曲「ミセス・ロビンソン(Mrs. Robinson)」の再録音ヴァージョンとともに『ブックエンド』に収録されました。全米アルバム・チャートでは『卒業-オリジナル・サウンドトラック』の1位を『ブックエンド』が引き継ぐ形で連続7週間の1位になり、また『ブックエンド』はサイモン&ガーファンクル初のイギリスでのNo.1ヒット・アルバムになっています。
この曲は日本でもCMやドラマ挿入歌(実質的に主題歌)、ザ・バングルスによる1987年のカヴァーの大ヒット(全米2位)などでのちに初発売時を上回るサイモン&ガーファンクルの人気曲になりましたが、サイモン&ガーファンクルといえば美しいメロディーの楽曲、美声のコーラスのフォーク・ロック(しかもボブ・ディランに代表される反体制派ではない、内省的な作風)で抒情的かつ上品なイメージがあり、英米ロックなどビートルズやストーンズでもうるさい曲は嫌、という女子中学生・女子高校生のファンが根強くついていたものです。それでなかなか気がつかないのですが、「冬の散歩道」は12弦ギターのリフや頭打ちのリズムに顕著なようにモータウンのアーティストに典型的な'60年代のR&Bのアレンジとリズムをアイディアとした楽曲であり、楽器の音色やニュアンス次第ではもっとハードなR&B系ロック曲になってもおかしくありません。フォー・トップスの「Reach Out I'll Be There」やローリング・ストーンズの「Satisfaction」とリズム構造は同じで、四つ打ちで頭打ちするドラムスはまったく同じです。
そのようにこの「冬の散歩道」は、もともとアルドン系ソングライターを目指していたというポール・サイモンの職人芸的な作曲が光る楽曲です。黒人音楽を下敷きにしたロックの正統的な発想をしっかり踏まえています。サイモンはのちにアメリカのポップス界ではいち早くレゲエを導入し、'80年代にはアフロ・ビートに着目したワールド・ミュージック指向で大成功を収めますが、黒っぽさのまるでない洗練されたポップスの次元でR&B、フォルクローレ、レゲエ、ワールド・ミュージックをまったく実験性を感じさせず白人ポップスになじませてしまうというのがユダヤ系白人ミュージシャン、サイモンの職人芸でもあれば、種を明かせば非白人音楽の漂白化ではないかと批判されるゆえんにもなっています。ともあれ「冬の散歩道」が初リリース当初よりも年を経るごとに人気曲になったのは曲想とリズム構造にR&Bからの巧妙な換骨奪胎があったからであり、サイモンの才気の大勝利を認めずにはいられません。こういうところがちょっと鼻につく、小憎らしい、ちょこざいなという気もしないではありませんが、サイモンほどの達者さでこれをやってのけたミュージシャンはいないと思うとお手上げするしかないではありませんか。