人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

「ドグラ・マグラ」(3)

一応公約通り「ドグラ・マグラ」とはどんな話か前回の締めくくりでまとめた。だが小説や映画で「ドグラ・マグラ」をすでに知っている人に疑問を持たれても仕方ない。そんな話だったっけ?もっとなにか、別の話だったような気がするけど…。ではどんな話だったか?ワケわかりませんでした(笑)。そういう感想を読者が抱くように、小説自体が尻尾をつかまれるのを拒んでいるかのように見える。

もう一度おさらいしてみよう。「ドグラ・マグラ」は非常に特異なアイディアと複雑な構成を持ったマッド・サイエンティスト小説で、実験の被験者が徐々にマッド・サイエンティストの陰謀の全貌に近づいていく、という探偵小説の形式で物語が運ばれていく。
過去のエピソードはふたりのマッド・サイエンティストによる治療合戦というかたちで、記憶喪失の精神障害者で入院中の青年「私」に披露される。青年はどうやら3件の殺人(母・婚約者・患者)を犯した「呉一郎」である過去を思い出させようとされているらしい。

ここでマッド・サイエンティスト同士の争いが見えてくる。大学時代からライバルだったがその後は大病院の院長、方や在野の学者と大きく水を開けられている。在野の学者は独創的な精神疾患治療を服案している。閉鎖病棟・隔離室が常識だった時代だから今日専門家によっても「ドグラ・マグラ」が注目される点だが、開放病棟中心に患者の人間性を回復させる、という治療法の提唱がそれだ。
それにはかつてのライバルを失脚させて自分が院長に取って代らなければならない。たまたま病院の近所に強い遺伝性の精神疾患を持つ中国系帰化人の家系があり、婚期の少女が住んでいた。ライバルを煽って少女を取り合い、少女は父親不詳の男児を生む。
マッド・サイエンティストの計画では、この男児は胎児の時点から潜在的精神疾患と錯乱による殺人行為の可能性を秘めている。青年が殺人者となればライバルは主治医としての責任から辞職を強いられ、自分がその後任に収まる。
この計画は青年が自分を呉一郎と認識し、責任能力を回復しないと達成しないと完遂しない。記憶は回復しない。これまで病棟内で教えられたこともどこまでが事実かわからない。マッド・サイエンティストは自殺したらしい。この小説は再び隔離室で青年が昏迷状態に陥るところで終る。
ではまた次回!