そして今回は「女の手」へのフェティシズムをぬめぬめと語る。正確には指。
『春の日の女のゆび』
この ぬるぬるとした空気のゆめのなかに、
かずかずのおんなの指という指は、
よろこびにふるえながら かすかにしめりつつ、
ほのかにあせばんでしずまり、
しろい沈丁花のにおいをかくして のがれゆき、
ときめく波のように おびえる死人の薔薇をあらわにする。
それは みずからでた魚のようにぬれて なまめかしくひかり、
ところどころに眼をあけて ほのめきをむさぼる。
ゆびよ ゆびよ 春のひのゆびよ、
おまえは ふたたびみずにいろうとする魚である。
(1927年作)
次は特異な作風で知られるSF作家シオドア・スタージョンの短篇小説「お前の優しい手で」を思わせる。
『頸をくくられる者の歓び』
指をおもうているわたしは
ふるえる わたしの髪の毛をたかくよじのぼらせて、
げらげらする怪鳥の寝声をまねきよせる。
ふくふくと なおしめやかに香気をふくんで霧のようにいきりたつ
あなたの ゆびのなぐさめのために、
この 月の沼によどむような わたしのほのじろい頸をしめくくってください。
わたしは 吐息に吐息をかさねて、
あなたのまぼろしのまえに さまざまの死のすがたをゆめみる。
あったかい ゆらゆらする蛇のように なめらかに やさしく
あなたの美しい指で わたしの頸をめぐらしてください。
わたしの頸は 幽霊船のようにのたりのたりとしてとおざかり、
あなたの きよらかなたましいのなかにかくれる。
日毎に そのはれやかな陰気な指をわたしにたわむれる
さかりの花のようにまぶしく あたらしい恋人よ、
わたしの頸に あなたの うれわしいおぼろの指をまいてください。
(同年作)
昭和2年のマゾヒズム詩。理解者に恵まれなかったのもやむなし、か。