原題'Lay,Lady,Lay'、アルバム「ナッシュヴィル・スカイライン」'Nashville Skyline'1969(上)に収録(シングルも)。この曲は後にライブ盤「激しい雨」'Hard Rain'1976(下)に「ローリング・サンダー・レビュー」と名銘ったツアーでの名演が記録されている(「ローリング・サンダー」は実在したネイティヴ・アメリカンの伝説的賢者)。
さて、この「ナッシュヴィル・スカイライン」はそれまでのボブ・ディランのどのアルバムより売れ、シングルも大ヒットした。大衆には熱烈に支持されたわけだが、一方で批評家や従来からのファンは愕然とした。ディランはカントリー、つまりアメリカ演歌のアルバムを作ってしまったのだ。では訳詞をどうぞ。
『レイ・レディ・レイ』
さあレディおいで、おれの大きな真鍮のベッドに
さあレディおいで、おれの大きな真鍮のベッドに
きみの心のなかがどんな色であっても
きみに見せてあげる、それがかがやくのを
さあレディおいで、おれの大きな真鍮のベッドに
ここにいてよレディ、きみの男といっしょに
夜が明けるまで、彼を微笑ませるのを見せてよ
彼の服は汚いが、手はきれいだよ
そしてこれまで見てきた最高はきみなんだ
ここにいてよレディ、きみの男といっしょに
どうして世界が始まるのを待っているんだい
きみはケーキを持つことも食べることもできるのに
どうして愛する人をずっと待っているんだい
彼はもう目の前に立っているのに
さあレディおいで、おれの大きな真鍮のベッドに
ここにいてよレディ、夜はまだ長いよ
おれは朝の光のなかできみを見たい
おれは夜にきみをつかまえたい
ここにいてよレディ、夜はまだ長いよ
(前記アルバムより)
同じシンプルなラブ・ソングでも初期の甘酸っぱさから一変してワビサビの境地になっている。その中間にはロック三部作の韜晦もしくはラリパッパ期があって、いずれにせよ自然な変化には見えない。
ディランは人前では決して笑わなかった。インタビューはサングラス着用で受けた。LPジャケットではいつもカメラをにらみつけていた。これらすべてが自己演出なら、笑顔のカントリー歌手(写真上)も自己演出だったのを歴史が証明する(写真下)。