ボブ・ディラン(1941-)問題のカントリー・アルバム「ナッシュヴィル・スカイライン」'Nashville Skyline'1969(写真上)収録。原題'I Threw It All Away'。後にライブ・アルバム「激しい雨」'Hard Rain'1976(写真下)にも収められる。この2枚のLPジャケットを見比べてください。かたや田舎歌手、かたや白塗り。もちろんその時々の気分でキャラクターを演じているのだ。音楽性もルックスを反映(逆?)する。ディランのカントリー指向はバイク事故で静養中の66年後半からの1年半のことらしい。大量のデモ・テープが録音され、復帰第一作「ジョン・ウェズリー・ハーディング」では控えめなフォーク・ロックだがすでにカントリーに行けるスタイルだったのが後からわかる。カントリーのラブ・ソングはもともと喪失の歌だから、ここを通って70年代ディランがあったのもうなづける。同じアルバムの『レイ・レディ・レイ』は愛の始まりの歌、『北国の少女』の再演(大御所ジョニー・キャッシュとのデュエット)が離別歌、これが破局後の哀歌とバラエティを持たせてある。プロの仕事だ。
『アイ・スリュウ・イット・オール・アウェイ』
かつてこの腕に彼女を抱いた
いつまでも一緒にいると彼女は言った
だがおれは残酷で
彼女を馬鹿のようにあつかった
おれはすべてを投げすててしまったんだ
かつておれは手のひらに山を乗せていた
そして毎日そこに川が流れてた
おれはきっとおかしかったんだ
自分がなにを持っているか知らなかった
おれがすべてを投げすててしまったときまでは
愛こそがすべてだ、世界を動かしているのは
愛ただそれのみだ、否定できはしない
きみがそのことをどう考えようと
それなしにはきみだってなにもできはしない
ためした人から助言をもらうといい
だからきみにありったけの愛を捧げてくれる女を見つけたら
心から受け取るんだ、逃がしてはいけない
これだけは確かなこと
きみは傷つくだろう
もしもすべてを投げすててしまったら
(前記アルバムより)
ちょっとフェリーニの「道」を思わせる(ディランにはアンソニー・クインを歌った曲もある)。サビの「愛こそが~」はディランらしからぬ(ビートルズ的)展開だが、勢いまかせだろう。