(5日目日記1から続く)
病棟は四つあり、三つは精神科、四つ目は精神科とアル中科混合。精神科のうち一つは女性病棟で、あと三つは男女混合。精神科もアル中科も基本的なコースは三ヶ月(精神科は一時退院後に通院し再入院の場合が多いが)。入退院時期が近いと一つ屋根の下で朝から就寝前まで一緒の生活が三ヶ月も続くから、同じテーブルで顔を突きあわせていた彼女とぼく(しかも同じ出身高校で、彼女は7年下という不倫ドラマ顔負けの設定)がそういうことになるのも格好の道具建てだった。入院中からだ。
望まない妊娠と中絶手術から鬱になり、リストカット常習とアルコール依存症になった2女の母(元大学病院生物学実験室勤務)、かたやフリーライター・バツイチ・前科者・精神障害者で生活保護と、ベタな要素は揃いすぎてる(ついでにアルトサックス奏者だったのも入れるか。彼女は高校・大学と吹奏楽部でクラリネットだったという。でもおれ、ジャズマンだから。当然クラもやってたし)。
一足先に退院した彼女はぼくの退院日に車で迎えにきて(運転は巧かった。飲酒運転の過信するほどに)それから毎日ぼくの部屋に来るようになった。
彼女がやってきて、帰っていくたび苦しい思いがした。毎朝彼女から来る「これから行ってもいいですか?」のメールを断れなかった。「お見舞いありがとう。でももう来ないでいい。帰った後かえって寂しくなるから」とメールでも面と向かっても言った。
チェーホフの「犬をつれた奥さん」をプレゼントした。「あんまり会ってると、おれたちもこうなるよ」彼女からの感想のメールは、「とても面白かった。あなたの過去の女性たちもこれを読んだのでしょうか。あなたはハッピーエンドかもしれないと言っていたけれど私はそうは思えません。あのまま二人とも苦しむのです」
彼女にはどうやら、チェーホフは逆効果になったようだった(さすが女のカンというか、つきあった女性にほぼ全員「犬をつれた奥さん」を薦めたのは事実だ。だが不倫というシチュエーションでは初めてのことだった)。
胃の内視鏡検査だった。あれはバリウムよりはマシだった。入院中というのはとにかくヒマ(午前と午後に一時間ずつ学習プログラムはあったが)だから、脳波でもレントゲンでも毎日だっていい(毎日レントゲンではまずいが)。
全然話が進まない。どうもすいません。