今回はピンク・フロイドの訳詞。見返りウシのジャケットで有名な「原子心母」'Atom Heart Mother'1970(図版上)はA面のオーケストラとの競演が目玉だが、実はB面の小品集が味わい深い。ニック・メイスンの曲はミュージック・コンクレートなので他のメンバー3人の曲を抄訳した。
『もしも』
'If'
もしぼくが白鳥だったら飛び去ってっただろう
もしぼくが列車だったら遅れてきただろう
そしてもしぼくが善良な人間だったら
ぼくはきっともっときみとたくさん話をしただろう
もしぼくが眠ったなら夢を見られただろう
もしもぼくが臆病だったら隠れていただろう
もしぼくがおかしくなっても どうか
ぼくの脳髄に針金を巻きつけないでおくれよ
もしぼくが月だったらぼくはクールだったろう
もしぼくがルールなら他人を縛りつけたろう
もしぼくが善良な人間だったら ぼくは
友人同士にある空間も理解ができただろう
もしぼくがひとりぼっちだったらぼくは泣くだろう
もしきみが一緒だったら涙は乾くだろう
そしてもしぼくがおかしくなっても きみは
ぼくを遊びの仲間に入れてくれるだろうか
(ロジャー・ウォーターズ作品)
*
『サマー'68』
'Summer'68'
立ち去る前になにか言ってくれないか
たぶんきみは適切な言葉が見つからないんだね
ぼくらはハローより前にグッドバイと言ってた
ぼくもきみとおなじでもう耐えられなくなってる
ぼくらは音楽が鳴り響く6時間前に会ったよね
きみのベッドから起きると今朝は血まみれの一年を失くしたようだった
だからぼくは知りたい どんな気分だい
どんな気分だい
(リチャード・ライト作品)
*
『デブでよろよろの太陽』
'Fat Old Sun'
空の太って老いた太陽が落ちかかるとき
夏の宵の鳥たちは鳴く
夏の日曜そして一年中
ぼくの耳に音楽が聞こえる遠い鐘、新緑の香り、
川べりで手を握りあい
ぼくを転がし横たわらせてくれ
そしてきみは音を立てず
地面から足をあげるんだ
そして暖かい夜がふける音が聞こえれば
不思議な舌の銀色の囁きが聞こえる
ぼくに歌え、ぼくに歌え…(デイヴィッド・ギルモア作品)