人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

西脇順三郎『体裁のいい景色』3

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西脇順三郎(1894-1982)の特異性を現代詩史から探ってみよう。
現代詩史を辿ると、現代詩の源流は高村光太郎(「道程」1914)と萩原朔太郎(「月に吠える」1917)に行きつく。金子光晴(「こがね虫」1923)や宮澤賢治(「春と修羅」1924)も高村・萩原の系譜と解せる。
一方突然変異的な詩集として「聖三稜玻璃」(山村暮鳥・1915)、「ダダイスト新吉の詩」(高橋新吉・1923)があり、それらの総合を目指して萩原恭次郎「死刑宣告」1925、吉田一穂「海の聖母」1926、草野心平「第百階級」1928、三好達治「測量船」1930が書かれた。これがだいたい治安維持法時代前(ファシズム時代以前)の現代詩の見取り図になる。
西脇はまるで異邦人のように登場した。詩ですらないような詩でデビューした。

『体裁のいい景色(人間時代の遺留品)』

(15)
夕暮が来ると
樹木が柔かに呼吸する
或はバルコンからガランスローズの地平線をみる
或は星なんかが温順な言葉をかける
実になっていない組織である

(16)
秋という術語を用いる時間が来ると
草木はみな葉巻の様な色彩になる
なんとキモチの悪い現実である

(17)
気候がよくなるとイラグサの花が発生している
三メートル位の坂をのぼって
だんだんと校長の方へ近づく

(18)
シルクハットをかむって樹木をみていると
頭が重くなる

(19)
洋服屋の様にテーブルの上に座って
口笛をふくと
ペルシャがダンダンと好きになる
なにしろバラの花が沢山あり過ぎるので
窮迫した人はバラの花を駱駝の朝飯にする
なにしろガスタンクの中にシャーベットを
貯蔵して夕暮が来ると洗濯をしたり
飲んだりするなんて
随分真面目になってしまう

(20)
進軍ラッパをとどろかしてからフチなし眼鏡をかけて
パイプに火をつける瞬間は忽然たるものである
そうして自画像が極端によく出来ている

(21)
王様の誕生日にハモニカを吹奏して
勲章をもらった偉人は
サマルカンドの郊外に開業している得業士である
彼の義父はアラビアに初めて
茄子を輸入した公証人であった
(「三田文学」1926年11月)