人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

(1)妄想と思考障害

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岡田尊司統合失調症」(2010,PHP新書)に、統合失調症患者の妄想に見られる思考障害を形式論理の障害として捉える学派が紹介されている。これを言語学の「シニフィエ」(示されたもの)と「シニフィアン」(示す言葉や記号)の不全と見るのが、形式論理の障害による思考障害による妄想(長い!)ということになる。
そこで画像をご覧ください。これはなんでしょう?ちらし寿司です。なぜ?

(1)ちらし寿司には紅しょうがが載っている
(2)紅しょうがが載っている飯はちらし寿司である
(3)この牛丼はちらし寿司である

あまりにもあんまりな例だが、形式論理の障害とは基本的にはこういうものなのだ。同書に紹介されたものでは、急に両親が偽者だと言い出した例がある。たまたま両親の素振りが冷たく感じた事があったらしい。そこから一足跳びに「偽者の両親」という妄想が生じた。ただしこれはシンプルな例なのだ。

ぼくは同室のKとナースステーションに就寝前の服薬をしに別のフロアに行っていた。戻ろうとすると、明らかに慢性化した重度の統合失調症患者とわかるTに呼び止められた。相談があるという。食堂の隅に座って話を聞くことにした。
「ロッカーから3万円盗まれたんです」とT「でもナースステーションではだれも相手にしてくれない」
-それは困りましたね、今後はナースステーションに預けて、大金はロッカーに入れないことですね。
するといきなりTは「ヘルパーのTが偽名で再就職してるの知ってますか?」
-おれたちまだ入院して10日くらいだから。
「そうですか。じゃあ去年のスポーツ大会も…」
知りません。なにかあったんですか?

「患者のHがスポーツ大会きっかけに凄んできたり、壁をドンドン叩いて脅してくるんです」
-それはスタッフに相談しなくちゃ。
「…実はヘルパーのTはぼくのアパートと病院のロッカーの合鍵を作っているんです。入院中に侵入している。Hかもしれない。アパートから入院に戻ると物が動かされたり、持ってきていないものがロッカーに入っていたりするんです」
-不思議ですね。
「Hからは壁を蹴られて『いつでも殺せるんだからな』と怒鳴られて、土下座させられました」
ぼくは穏やかにメモをとっていた。とにかく相手が話したいことに耳を傾けることだ。
(続く)