映画史上初の長篇劇映画「国民の創生」1915で大ヒットを飛ばし、一躍世界映画の最前線に立ったD.W.グリフィスだが、次作「イントレランス」1916は長さこそ前作(3時間)よりスリムだが(それでも2時間45分)あらゆる点で前作を凌駕するスケールの作品となった。DVDのパッケージから引く。
○STORY 人間の心の狭さをテーマに時代ごとの4つの物語が語られる。無実の罪で死刑宣告を受ける現代のアメリカ青年、キリストの受難、ペルシャに滅ぼされるバビロン、宗教改革が発端としたフランスの虐殺が並列的に描かれ、寛容を説く内容になっている。
「国民の創生」と並んでD.W.グリフィス監督の代表作とされる本作だが、彼の映画の看板女優リリアン・ギッシュは4つの物語には登場することはなく、各物語をつなぐ、ゆりかごで眠る赤ん坊を見つめる女性(図版3)として現れるのみである。このL.ギッシュは聖母マリアを象徴すると言われ、本作のテーマである'寛容の必要性'を喩えているのだろう。
田中純一郎「日本映画発達史」でもこの作品(エキストラ30万人、古代バビロンの実物大セット!)に一章を割き国際的な反響の大きさ、映画史上の画期的な意味を解説している。
伝説的な「古代バビロンの実物大セット」はDVDのパッケージ(図版1)にスチール写真が載っているが、これは映画技法の面では舞台劇の撮影作品の域を出ないながらエキストラやセットの規模だけはばかでかいイタリア史劇映画、特に世界的ヒットとなった「カビリア」1914への対抗意識だったという。同年グリフィスはイタリア史劇映画への対抗作「ベッシリアの女王」(図版4)を製作したがスケールでは及ばなかった。
古代バビロンの城壁の実物大セットはとうてい通常の方法では全景を収められず、気球から撮影された。また大群衆のシーンの撮影のために俯瞰撮影用の移動式脚立が開発され、改良された現在でもカメラマン用脚立は「イントレ」と呼ばれている。
CGやワイヤー・アクションこそないがこの映画ははっきりと映画ならではの技法を結果的に定着してみせた。「イントレランス」がなければ「戦艦ポチョムキン」も「市民ケーン」もなかっただろう。
映画はヒットした。だが製作費が膨大すぎ大赤字だった。バビロンのセットの解体費もなく数十年間野ざらしだったという。