前回(9月1日)に載せたリストの感想編です。60本ほどありますが、3か月=90日ですからそれほど多くはなく、大半は観直した作品になりました。きっかけは、
・D・W・グリフィス『国民の創生』と『イントレランス』を観直しなくなった。
・初期10年間のゴダールを見直したくなった。
----でしたが、グリフィスとゴダールの間にならどんな映画でも入ってしまうので、プログラム・ピクチャー系近作アニメは心安らぐ箸休めが欲しい時に観直しました。
岸誠二『劇場版 蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ- DC』(アルペジオ・パートナーズ/ショウゲート'2015)
岸誠二『劇場版 蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ- Cadenza』(アルペジオ・パートナーズ/ショウゲート'2015)
●岸誠二監督のアニメは(『AngelBeats!』『ペルソナ』『ダンガンロンパ』『暗殺教室』シリーズ、『乱歩奇譚』など)感覚の鋭さには牽かれるが冷たさも感じる。『蒼き鋼の~』はほぼ全編3D制作で、かえってほど良く画面に温もりが出た。『DC』の前半はテレビシリーズのダイジェストだがあまりに駆け足に過ぎるので、テレビシリーズ→劇場版完結編の順で観ないと十分には堪能できないかも。
山田尚子『映画けいおん!』(京都アニメーション=映画『けいおん!』制作委員会/松竹'2011)
山田尚子『たまこラブストーリー』(京都アニメーション=『たまこラブストーリー』制作委員会/松竹'2014)
●テレビシリーズを観ていなくても独立した完結編として観られる劇場版長編。 京都アニメーションのマンネリ化の最後の砦というべき監督なのではないか。過剰にドラマチックにならず、さりげなく日常的情感を描くのがうまい。劇場版新作『聲の形』も今週末公開だが、テレビCMでは『心が叫びたがってるんだ』みたいな最近猖獗をきわめるドラマチックな青春恋愛もののようで、いまいち食指伸びず。
水島努『ガールズ&パンツァー劇場版』(アクタス=バンダイビジュアル/ショウゲート'2015)
●劇場公開初日で観て以来ディスク化が楽しみで。映画館で1度観ただけではわからず、くり返し鑑賞してようやく判明する細部がてんこ盛り。もう7、8回くらいディスク鑑賞したかも。なお水島監督のこれまでの劇場版アニメの秀作には『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード』2003、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ』2004もあるのをお忘れなく。
本郷みつる『映画クレヨンしんちゃん ヘンダーランドの大冒険』(シンエイ動画=バンダイビジュアル/東宝'96)
原恵一『映画クレヨンしんちゃん 暗黒タマタマ大追跡』(シンエイ動画=バンダイビジュアル/東宝'97)
原恵一『映画クレヨンしんちゃん 電撃! ブタのヒヅメ大作戦』(シンエイ動画=バンダイビジュアル/東宝'98)
●シンエイ動画の「クレヨンしんちゃん」アニメは初代監督・本郷みつる、2代目監督・原恵一、3代目(現)監督・ムトウユージときて、『ガルパン』の水島努監督は本郷監督時代から演出に就いていた(なので劇場版監督にも起用された)。劇場版クレヨンしんちゃんはどれも面白く何度も観直しているが、塩沢兼人氏の逝去以来16年間CV配役がなかったぶりぶりざえもんが5月に神谷浩史CV配役で再登場するようになったので、塩沢兼人時代のぶりぶりざえもん登場作とひまわりの劇場版初登場作をリピート視聴したくなった次第。しんちゃん映画はテレビシリーズしか知らない人には驚くような傑作揃いで、エスパニア語圏ではジブリより浸透しているとか。今春の『ユメミーワールド』もクレしん映画上位に入る名作。
大塚隆史『映画プリキュアオールスターズDX みんなともだちっ☆奇跡の全員大集合!』(東映アニメーション/東映'2009)
志水淳児『映画プリキュアオールスターズNewStage みらいのともだち』(東映アニメーション/東映'2012)
伊藤尚往『映画ドキドキ!プリキュア マナ結婚!?未来につなぐ希望のドレス』(東映アニメーション/東映'2013)
今千秋『映画ハピネスチャージプリキュア! 人形の国のバレリーナ』(東映アニメーション/東映'2014)
●プリキュア映画はテレビシリーズの特別編という内容なので、テレビシリーズあっての劇場版ではあるが、今年春の「オールスターズ」の新作がまずまずだったので特に好きな作品を観直してみた次第。『~奇跡の全員大集合!』はオールスターズ作品第1作、『~みらいのともだち』は「NewStage」3部作の初作で力作だし、『映画ドキドキ!プリキュア』と『映画ハピネスチャージプリキュア!』はドキドキはヒットしてハピネス~は低迷したのは同等の秀作なのに解せないぞ。今秋の劇場版『魔法つかいプリキュア!』は高橋李依・堀江由衣・早見沙織と人気声優揃い踏みだから、劇場版の低迷傾向を押し上げてくれるのを期待。
D・W・グリフィス『国民の創生』(アメリカ'15)
『イントレランス』(アメリカ'16)
●学生時代に2本立てで観た時は2時間前後の短縮版プリントだったのを今回何度目かのDVD鑑賞(各180分)で思い出した。内容は言わずもがな、長編劇映画の技法を確立した、映画そのものを象徴する傑作。映画って結局いまだにグリフィスの手の上で踊っているだけなんじゃないかと観ている間は思えてくる。
エーリッヒ・フォン・シュトロハイム『愚なる妻』(アメリカ'22)
『グリード』(アメリカ'24)
●グリフィスの弟子。たった数年で映画がリアリズムから自然主義に発展した。師匠の延長ではあるが映像の鮮烈さ、緊迫感、圧倒的な個性とデカダンスに満ちた鋭い異常感覚は一世一代。どちらも現存プリントは2時間前後でオリジナルの半分の短縮版なのが観直すたびに歯がゆい。シュトロハイムは未DVD化作品もあるので全集が出ないだろうか。
アベル・ガンス『ナポレオン』(フランス'27)
●フランスのグリフィスまたはシュトロハイムに当たるサイレント期の偉大な古代妄想的大作映画の巨人。短縮版現行DVDでも4時間。雄大な伝記映画で凝った映像だがグリフィス、シュトロハイムと較べるとトータルでは感覚が鈍く内容、構成、人物造形が甘く感じる。
ジョン・フォード『駅馬車』(アメリカ'39)
ハワード・ホークス『コンドル』(アメリカ'39)
●ジョン・ウェイン主演の西部劇とケーリー・グラント主演の航空映画。奇しくも同年作品で、『コンドル』は昭和15年2月、『駅馬車』は昭和15年6月日本公開で太平洋戦争開戦直前の最後のアメリカ映画輸入で大ヒットになった。いくら絶讃してもし足りない。世界一面白い映画を2本といったらこの2本でもいい。
オーソン・ウェルズ『ザ・ストレンジャー』(アメリカ'46)
ジャン・ルノワール『浜辺の女』(アメリカ'47)
●アメリカ映画界の異端児のナチス残党追跡サスペンス(ジョン・ヒューストン脚本)と、ドイツ占領下の祖国を逃れて渡米したフランスの巨匠の悪女もの官能B級スリラー。ところがこれが半分手抜きなのに異様なムードでぐいぐい引き込まれる。そこが天才たるゆえんか。
ジャン・ヴィゴ『新学期 操行ゼロ』(フランス'33)
●ルノワール、ルネ・クレールの系譜を継ぐヴィゴは短編ドキュメンタリー2本、劇映画は本作と『アタラント号』1934しか残せず29歳で急逝した。まだホーム・ヴィデオもなかった頃から上映会のたびにもう何度も観たことか。好きなのは『アタラント号』だが、切れ味と革新性は『新学期~』になる。同国人だからこその偶然か影響関係か、寄宿舎の騒動シーンはガンス『ナポレオン』と似ている。
ロベール・ブレッソン『罪の天使たち』(フランス'43)
『ブーローニュの森の貴婦人たち』(フランス'45)
『田舎司祭の日記』(フランス'50)
『抵抗』(フランス'56)
『スリ』(フランス'59)
『ジャンヌ・ダルク裁判』(フランス'62)
『バルタザールどこへ行く』(フランス'66)
『少女ムシェット』(フランス'67)
●ロベール・ブレッソン(1901-1999)は生涯に13本の長編劇映画しか作らなかった寡作の人(本職は映像学校の先生だったとか)。『罪の天使たち』~『少女ムシェット』は第1作~第8作で、後の作品ほどストイックに切り詰めた作風が徹底していく。最高傑作は『バルタザールどこへ行く』、次点は世評では『抵抗』だろうが、筆者は『田舎司祭の日記』を社会的視野の広さ(『バルタザール~』も同様)で買う。ブレッソン作品は主人公以外の登場人物を掘り下げきれない、という限界があり、『バルタザール~』と『田舎司祭~』は例外的に一種の群像劇に成功していると思える。特に1匹の従順なロバが田舎の息詰まる人間社会のあらゆる悪の犠牲となっていく『バルタザールどこへ行く』は神話の域に達した稀代の名作だろう。
以下の作品は次回に感想文を書きます。
ミケランジェロ・アントニオーニ『さすらい』(イタリア'57)
『情事』(イタリア'60)
『太陽はひとりぼっち』(イタリア'62)
アラン・レネ『夜と霧』(フランス'55)
『二十四時間の情事』(フランス'59)
『去年マリエンバートで』(フランス'61)
ジャック・リヴェット『パリはわれらのもの』(フランス'61)
『修道女』(フランス'66)
『アウト・ワン : スペクトル』(フランス'72)
ジャン=リュック・ゴダール『勝手にしやがれ』(フランス'60)
『小さな兵隊』(フランス'63)
『女は女である』(フランス/イタリア'61)
『女と男のいる舗道』(フランス'62)
『カラビニエ』(フランス/イタリア'63)
『軽蔑』(イタリア/フランス'63)
『はなればなれに』(フランス'64)
『恋人のいる時間』(フランス'64)
『アルファヴィル』(フランス/イタリア'64)
『気狂いピエロ』(フランス/イタリア'65)
『男性・女性』(フランス/スウェーデン'66)
『メイド・イン・USA』(フランス'66)
『彼女について私が知っている二、三の事柄』(フランス'67)
『中国女』(フランス'67)
『ウイークエンド』(フランス'67)
ヴェルナー・シュレーター『アイカ・カタパ』(西ドイツ'69)
ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー『愛は死より冷酷』(西ドイツ'69)
ハンス=ユルゲン・ジーバーベルク『ヒトラーまたはドイツ映画』(西ドイツ'77)第1部
シャンタル・アケルマン『ジャンヌ・ディエルマン、ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』(ベルギー/フランス'75)
テレンス・デイヴィス『テレンス・デイヴィス3部作(「子供たち」'76/「マドンナと子供」'80/「死と変容」'83)』(イギリス'76-'83)