蒲原有明
(蒲原有明明治8年=1875年生~昭和27年=1952年没>) 智慧の相者は我を見て 智慧(ちゑ)の相者(さうじや)は我を見て今日(けふ)し語(かた)らく、 汝(な)が眉目(まみ)ぞこは兆(さが)惡(あ)しく日曇(ひなぐも)る、 心弱くも人を戀ふおもひの空の 雲、疾風(はやち)…
蒲原有明・明治9年(1876年)生~昭和27年(1952年)没 日のおちぼ 日の落穗(おちぼ)、月のしたたり、 殘りたる、誰(たれ)か味ひ、 こぼれたる、誰かひろひし、 かくて世は過ぎてもゆくか。 あなあはれ、日の階段(きざはし)を、 月の宮――にほひの奧を、 かくて將…
蒲原有明・明治9年(1876年)生~昭和27年(1952年)没 あだならまし 道なき低き林のながきかげに 君さまよひの歌こそなほ響かめ、―― 歌ふは胸の火高く燃ゆるがため、 迷ふは世の途みち倦みて行くによるか。 星影夜天(やてん)の宿(しゆく)にかがやけども 時劫(じ…
蒲原有明・明治9年(1876年)生~昭和27年(1952年)没 牡蠣の殼 牡蠣(かき)の殼(から)なる牡蠣の身の かくもはてなき海にして 獨(ひと)りあやふく限ある そのおもひこそ悲しけれ 身はこれ盲目(めしひ)すべもなく 巖(いはほ)のかげにねむれども ねざむるままにお…
蒲原有明・明治9年=1876年3月15日生~ 昭和27年=1952年2月3日没(享年76歳) あだならまし 道なき低き林のながきかげに 君さまよひの歌こそなほ響かめ、―― 歌ふは胸の火高く燃ゆるがため、 迷ふは世の途(みち)倦みて行くによるか。 星影(ほしかげ)夜天(やて…
蒲原有明・明治9年(1876年)生~昭和27年(1952年)没 「朝なり」 蒲原有明朝なり、やがて濁川(にごりかは) ぬるくにほひて、夜の胞(え)を ながすに似たり。しら壁に―― いちばの河岸(かし)の並み藏の―― 朝なり、濕める川の靄。川の面(も)すでに融けて、しろく、…