人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

新体詩

蒲原有明詩集『有明集』(明治41年=1908年)より

(蒲原有明明治8年=1875年生~昭和27年=1952年没>) 智慧の相者は我を見て 智慧(ちゑ)の相者(さうじや)は我を見て今日(けふ)し語(かた)らく、 汝(な)が眉目(まみ)ぞこは兆(さが)惡(あ)しく日曇(ひなぐも)る、 心弱くも人を戀ふおもひの空の 雲、疾風(はやち)…

蒲原有明『春鳥集』明治38年(1905年)より

蒲原有明・明治9年(1876年)生~昭和27年(1952年)没 日のおちぼ 日の落穗(おちぼ)、月のしたたり、 殘りたる、誰(たれ)か味ひ、 こぼれたる、誰かひろひし、 かくて世は過ぎてもゆくか。 あなあはれ、日の階段(きざはし)を、 月の宮――にほひの奧を、 かくて將…

蒲原有明詩集『獨弦哀歌』明治36年(1903年)より

蒲原有明・明治9年(1876年)生~昭和27年(1952年)没 あだならまし 道なき低き林のながきかげに 君さまよひの歌こそなほ響かめ、―― 歌ふは胸の火高く燃ゆるがため、 迷ふは世の途みち倦みて行くによるか。 星影夜天(やてん)の宿(しゆく)にかがやけども 時劫(じ…

蒲原有明「牡蠣の殻」「甕の水」(創元社『蒲原有明全詩集』より)

蒲原有明・明治9年(1876年)生~昭和27年(1952年)没 牡蠣の殼 牡蠣(かき)の殼(から)なる牡蠣の身の かくもはてなき海にして 獨(ひと)りあやふく限ある そのおもひこそ悲しけれ 身はこれ盲目(めしひ)すべもなく 巖(いはほ)のかげにねむれども ねざむるままにお…

薄田泣菫「破甕の賦」明治33年(1900年)

薄田泣菫・明治10年(1877年)5月19日生~ 昭和20年(1945年)10月4日没(享年68歳) 破甕の賦 火の氣絶えたる廚(くりや)に、 古き甕(かめ)は碎けたり。 人の告ぐる肌寒(はださむ)を 甕の身にも感ずるや。 古き甕は碎けたり、 また顏圓(まろ)き童女(どうによ)の 白…

島崎藤村「髮を洗へば」「君がこゝろは」「傘のうち」明治29年(1896年)

島崎藤村・明治5年(1872年)3月25日生~ 昭和18年(1943年)8月22日没(享年72歳) 『若菜集』明治30年(1897年)8月29日・春陽堂刊 髮を洗へば 髮を洗へば紫の 小草(をぐさ)のまへに色みえて 足をあぐれば花鳥(はなとり)の われに隨ふ風情(ふぜい)あり 目にながむ…

蒲原有明「あだならまし」明治34年(1901年)

蒲原有明・明治9年=1876年3月15日生~ 昭和27年=1952年2月3日没(享年76歳) あだならまし 道なき低き林のながきかげに 君さまよひの歌こそなほ響かめ、―― 歌ふは胸の火高く燃ゆるがため、 迷ふは世の途(みち)倦みて行くによるか。 星影(ほしかげ)夜天(やて…

土井晩翠「荒城の月」(明治31年=1898年作)

土井晩翠・明治4年(1871年)生~昭和27年(1952年)没 「荒城の月」 土井晩翠明治卅一年頃東京音樂學校の需に應じて作れるもの、作曲者は今も惜まるる秀才瀧廉太郎君春高樓の花の宴 めぐる盃(さかづき)影さして 千代の松が枝わけ出でし むかしの光いまいづこ。…

蒲原有明「朝なり」(詩集『春鳥集』明治38年=1905年より)

蒲原有明・明治9年(1876年)生~昭和27年(1952年)没 「朝なり」 蒲原有明朝なり、やがて濁川(にごりかは) ぬるくにほひて、夜の胞(え)を ながすに似たり。しら壁に―― いちばの河岸(かし)の並み藏の―― 朝なり、濕める川の靄。川の面(も)すでに融けて、しろく、…

薄田泣菫「ああ大和にしあらましかば」(明治38年=1905年作)

薄田泣菫・明治10年(1877年)生~昭和20年(1945年)没 「ああ大和にしあらましかば」 薄田泣菫ああ、大和にしあらましかば、 いま神無月(かみなづき)、 うは葉散ちり透(す)く神無備(かみなび)の森の小路(こみち)を、 あかつき露に髮ぬれて、徃(ゆ)きこそかよへ…

石川啄木と『現代詩人全集』 (昭和4年=1929年~昭和5年=1930年)(後編)

(石川啄木明治19年=1886年生~明治44年=1912年没>) ここ数回に渡って古色蒼然たる『現代詩人全集』(新潮社・昭和4年~5年/1929年~1930年)をまず俎上に上げたのは、当時の日本現代詩の過渡期の詩人をご紹介したかったかです。昭和4年(1929年)といえば前年に…

石川啄木と『現代詩人全集』 (昭和4年=1929年~昭和5年=1930年)(前編)

(石川啄木明治19年=1886年生~明治44年=1912年没>) 隱沼 石川啄木 夕影しづかに番(つがひ)の白鷺(しらさぎ)下り、 槇(まき)の葉枯れたる樹下(こした)の隱沼(こもりぬ)にて、 あこがれ歌ふよ。――『その昔(かみ)、よろこび、そは 朝明(あさあけ)、光の搖籃(ゆ…

横瀬夜雨と『現代詩人全集』(昭和4年=1929年~昭和5年=1930年)

(横瀬夜雨明治11年=1878年生~昭和9年=1934年没>) 涙 横瀬夜雨 おもひしずけきかりねにも ゆめだにみればやるせなく なみだにぬるゝわがそでを からんとのらすきみもがな ひとよふけゆくなかぞらに かたわれづきのてれるみて はかなきかげのうらめしく たも…

河井醉茗・日夏耿之介と『現代詩人全集』(昭和4年=1929年~昭和5年=1930年)

(河井醉茗) 稚児の夢 河井醉茗 そらに きみの こゑを きけり むねと むねと かげと かげと そらに あひて こゑを きけり たびの ひとの みては かへる ふるき かべに うたを のこし きみと ともに そらを あゆむ ふかき もやは ゆくに ひらけ うみは とほし …

中西梅花「出放題」(『新體梅花詩集』明治24年=1891年刊より)

『新體梅花詩集』明治24年(1891年)3月10日・博文館刊。 四六判・序文22頁、目次4頁、本文104頁、跋2頁。(ダストジャケット・本体表紙) 日本の現代詩の起点は北村透谷(明治元年=1868年生~明治27年=1894年)5月16日縊死自殺・享年25歳)の存在が真っ先に上げ…