人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

眠れる森5・後編(連作40・完)

(連作「ファミリー・アフェア」その40・完)

ぼくは結局彼女との関係に行き詰まり、病状を急激に悪化させ入院した。前回の緊急入院では肉体的に危篤寸前だったが、今回は錯乱がひどいと診断され三週間隔離室に入れられた。あまりに何もすることがなく、かえって突拍子もない妄想にうなされた。
経験上の冷静な判断もあった。入院は12月1日、おそらく外泊訓練までに2か月、退院は入院満3か月過ぎだろう(予想は当った。退院は2011年3月9日だった)。この入院は実家には連絡されたろうが、誰からも突然消えたように見えただろう。娘たちへのクリスマスプレゼント、年賀状、お年玉も贈れなかった。友人知人への年賀状もブランクができ、その年を境にすっかり忘れ去られた格好になった。

彼女はどうしていたか?彼女はぼくの通うクリニックに問い合わせ、無理を承知で必死で聞き出し(「死んでいるかもしれないんです!って食い下がったのよ」)、その一方では脅迫者のSくんに誘われて食事し、再入院するからセックスさせてほしい、というのは断ったが軽く抱いて背中をとんとんした(彼女が言うからには信じる他ない)。-ぼくの退院と共にメールと電話は再び頻繁になったが、一年前のように心おきなく訪ねてくる、ということはできなくなっていた。

一時は彼女はご主人の急死まで願ったという。彼女のご主人は延々半年間持たされたお弁当を捨てていたそうだ。
ぼくとの関係が長引けば長引くほど、また改めて発覚した時の主人の怒りがこわい(と彼女はメールに書いてきた)。そうだね、とぼくは返信した、きみは執着するものが多すぎて捨てることができない。
そうです、(と彼女は返信してきた)でもあなたにそれを言われたくなかった。もしまたばれたら、私は許してもらえるまで謝って離婚はしないつもりです。

最初は本気と言っていた彼女だが、もうこの頃には「私の浮気のせいで…」とヒロイン気取りの泣き言をこぼすようになっていた。アルコール依存症にも戻り、過食しては嘔吐し、リストカットした。相変わらずご主人の退屈さや吝嗇、横暴、ぼくとの関係は諦めきれない等々…ぼくの幻滅も底をついた。彼女の執着とは自己愛の延長でしかない。
退院後一度だけ彼女を抱くと、もう覚悟をつけた。リスクが同じなら自由な方がいい。数日後、ぼくは彼女に一方的な別れのメールを送った。