Elmo Hope(1923-1967,piano)。
別れたかみさんの感想などを持ち出しても仕方がないが、彼女はジャズは何を聴いても同じに聴こえるという人だった。ところがアルバート・アイラー(テナーサックス)とエルモ・ホープは他のジャズと聴き分けがつき、筆者が自宅仕事中に聴いていると「またこないだの聴いてるのね」と寄ってきたものだ。ホープもアイラーも演奏に独特の癖がありオリジナル曲に特徴がある(どのジャズマンでもそうだが)。ニコルスの本格的評価とニコルス曲集の多さに較べて、ホープの本格的評価が没後50年近くになっても起きないのは、ホープの曲がホープ自身の演奏と切り離せないからかもしれない。
ホープの次作は夫人とのピアノ・デュオ3曲を含むソロ・ピアノ作品、
Hope-Full(画像1)61.11.9
-で、リヴァーサイド社も何でまたこんな輪をかけて売れそうにない企画を実行したものか。全8曲中オリジナル4曲だが、1曲平均4分と、さほど長くない。ビル・エヴァンスの例のように経済的困窮救済のための録音だったのか。それにしてはエヴァンスの場合はボツにしているのにこの作品は録音からすぐ発表されているのだ。
次作は再びマイナー・レーベルから、
Sounds From Rikers Island(画像2)63.8.19
-で、年度とタイトルに注目。ライカーズ島とは刑務所兼更生施設のあるニューヨークの島で、要するにそこで知りあったジャズマンたちと出所後に録音したアルバム。全9曲中オリジナル5曲、ヴォーカル入り2曲でトリオ2曲、管楽器4人と賑やかな布陣。だが今度はなかなかジャズ界に復帰できなかったようで死の前年の録音が最後になる。
The Final Sessions Vol.1,Vol.2(画像3)66.3.8&5.9
-は2枚で全15曲+別テイク3曲、うち12曲オリジナルのピアノ・トリオ作品。再演がほとんどだが長調を短調に変えて新曲にしたりオクターヴ上でリズム・アレンジをがらりと変えていたりと至るところに工夫がある。演奏時間も長く、平均6分を越える。充実した音楽的遺言になった。幼馴染みのバドは7月に肺結核と栄養失調で亡くなる。ホープも翌年5月に逝去。ホープにはついに華の時代はなかった。