本当はこのシリーズは始める前は一回一曲でサラッとまとめるつもりだった。
「でも一曲一回じゃとても終りません」とぼくは訪問看護のアベさんに言った。「誰の演奏をCDで聴いて、いろんな人のヴァージョンを聴き、曲の来歴を調べ、そのうち演奏したくなり、採譜してあちこちのジャムセッションで演奏し、自分たちのバンドで練習してクラブ出演で披露する。もちろんぼく自身の個人練習も含めて、切り口がどこからでもあります。とても一回では済みません」
ぼくは続けて、「だからもう、計画的な書き貯めはせずに毎日の勢いで書いています。以前のシリーズは書き貯めもできましたが、今は毎日書き下ろしでやっています」
「その方が鮮度があって、いいんじゃないですか?」
確かにそれはある。ジャズなんていう即興性を生命力にする音楽にまつわる逸話がしばしば即興的に脱線するのも、ジャズマンが落ちつきかなくて飽きっぽい証拠だ(ということにしてほしい)。今回は前回の続きが本題になる。
ぼくとKがデュオで『イエスタデイズ』をやる自信をつけた頃、次のクラブ出演には西島さんが参加してくれることになった。西島さんは神戸から出てきてジャムセッション以外では初ステージになる。幸か不幸か花ちゃんがスランプで半数の曲は休みたいという。ただ、うちのバンドはピアノレスのサックス&ギター・カルテットで演ってきて、Kと守屋くんのコンビネーションはとても癖が強いから、西島さんが休み花ちゃんが入る曲も半数はある。せっかくだから西島さんの持ち曲もフィーチャーしたい。西島さんが臨時参加してくれるようになる以前にうちのバンドは晩八時~明朝六時までクラブでオールナイト出演したこともあった。二年間でほぼ50曲のレパートリーがあったから、そのくらいのことはできるバンドになっていた。
バンドでなにが楽しいかって、セットリストを決める話しあいほど楽しい時はない。うちのバンドはクラブのマスターにあいさつしてから、近くので腹ごしらえしながらセットリスト会議をした。開演七時半、十時には普通のバー営業になるそうだから、セットリストは二部制にして一時間ずつ、休憩時間を十分ほど挟む。これはお店が飲み物や料理の追加オーダーをとるためでもあるし、ジャズの生演奏は演る側も聴く側もほどほどにしないと疲れる。ジャズクラブでは大体それが慣習になっている。