人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟の思い出21

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・3月14日(日)晴れ
「病棟は週末外泊で10人にも満たないから朝もせわしない感じがしない。学習プログラムもないので煙草でも喫っているか駄弁っているくらいしかない(注1)。朝刊の書評欄で『失われた天才~忘れ去られた孤高の天才音楽家の生涯』(春秋社、ケヴィン・バザーナ)という、ニレジハージなるピアニスト=作曲家の面白そうな評伝を見つける。Mさんもどれどれ、と興味を示し、買おう、メモしておいてくれないか。書評欄には他にもレヴィ=ストロースの『構造神話』全五巻完結など(注2)」

「昼食はなめこそば。普段の定食仕立ての病院食もおいしいが、麺類の日は少ないので嬉しい。Yくんは昨日のTさんとの対局で五連敗したのでたっぷり寝ました、今日はリヴェンジですよ。何局差すの?10局差します。目標は?1勝9負(笑)…昼食後にさっそく始めていたが一局あたり五分とかからずYくん次々と投了、二人とも強すぎてなぜもう投了なのか見ていてもわからず、10局まで差さずYくんギヴ・アップする。やっぱり食えないじいさんだ。加減を知らない。一方的に勝つばかりでは面白くもないだろうに」

「もう明日で入院二週間。ロビーに下りて(注3)N先生にメール書くが、なにを伝えたいのか自分でもわからなくなる。二時間かけても500バイト(約250字)も打てない。そういえば朝の服薬で第三病棟に行ったら昨夜のお婆さんとすれ違い、昨日はありがとうございましたと言われてしまった。どうやら幻聴が止んだので、通報してもらったと思ったようだ」

「門限が夕方四時なのでやにわに騒がしくなる。FさんにTレポート(注4)見せると興味津々、常識的な書き込みしながら読んでいるので昨夜の老婆の事件も話すと、よくよく巻き込まれるもんだねと感心される。九時からのジャッキー・チェン映画は観客多数。トイレに立って廊下に出ると、またあの老婆が近づいてきてあの、すいません、お願いが…」(続く)

(注1)第二病棟はアルコール科なので禁酒のつらさを和らげるために喫煙室は24時間解放されていた。
(注2)入院中に限って外せない本やCDががんがん出るので、退院後買い揃えるのが大変だった。
(注3)病棟内では携帯電話使用禁止。N先生は入院のきっかけになった事件の教会の牧師。
(注4)第三病棟の被害妄想型統合失調症患者。以前の記事で既出。