人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟の思い出26

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・3月17日(水)晴れ
(前回から続く)
「今週の入浴順は男性が先(注1)で15時半~17時、夕食を挟んで女性は19時~20時半。時間を持て余しているので15時半を待ってさっさと一番風呂。こういう時もKくんは佐伯くん入るのか?ならおれも、とくっついてくる」

「夕食後、真っ先に第三病棟で服薬してきたHAが興奮して戻ってくる。一昨日泥酔骨折入院してきたアル中青年患者がこんな所にいたら気が狂う!すぐに退院させろ!と大騒ぎしており、すぐには無理だが金曜に退院するらしい。原因はほぼ同時に入院してきたイカレたおやじの大暴れ(注2)。それにしてもHAは誰彼となく話しかけ、静かになったかと思うとまた騒ぎ出すの繰り返しでよく疲れないものだ。それも彼女のストレス解消法なのかもしれないが(注3)」

「今朝の朝の会の前に昨日入院してきたKmさんにあいさつすると、彼も同年で元ライター、仕事先の版元もほとんど重なっているのがわかった。昔すれ違ったことあるかもしれませんね。今はヤマ師です。ヤマ師って?木樵です。今回の入院は?躁鬱です。八年通ってます。躁鬱とアルコールならまずアルコールを治した方がいいですよ。簡潔に、きっぱりと話す。第一印象から人間のレヴェルが数等上という感じだ」

「晩に喫煙室でたまたま二人きりなったので話していると、途中からMさんとKくんも入ってきたが明らかに圧倒されていて会話に入ってこなかった。書きたくもない物いつまで書いていても仕方ないからライターは辞めた。木樵の報酬は食材の現物支給だから自給自足で暮している。道具の手入れも自分でやる。アルコール依存症克服は四年かかったが今は主治医公認で適度に晩酌している。大丈夫ですよ、アルコール依存症治せば普通の酒飲みに戻れますよ。今回は年度末で忙しくなるので金曜まで四日間の休息入院だという。眼光の鋭さ、引き締った表情や体格、無駄なく要点だけを押えて隙のない口調など、これほど強固な意志と実行力を(しかもエゴイズムやナルシシズム抜きで)感じさせる人は今まで会ったことがない、というほどだった。彼ならロビンソン・クルーソーにでもなれるだろう」

(注1)週替りで入浴順は男女交替になる。
(注2)やがて同おやじは第二病棟も恐怖のどん底にたたき込む。
(注3)徐々にナルシシズム型+演技型人格障害が明らかになる。