人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟の思い出28

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・3月18日(木)晴れ
(前回より続く)
「さっきA屋に寄った時にジャンプの『HUNTER×HUNTER』とサンデーの『絶対可憐チルドレン』を立ち読みした。数週分空いたが入院中も読めるわけだ。午後の学習はグループワーク。テキスト順とは限らず、今回は第一章。学習室からデイルームに戻るとKくんは軽鬱っぽく、デイルーム全体がたそがれた雰囲気になっている。ヤマザキコッペパンつぶあん&マーガリンにありつけたら少しは気分もましだっただろうか」

「数日前まで食事も一人部屋で取り、たまに廊下で見かけるだけでYくんが不思議がっていたTkさんは、HA(25歳と若いのに統合失調症で入退院を繰り返していて生保を受けていると知った)が移室してきて、Kmさん(入院二日目にナースステーションに怒鳴り込み部屋替えしてもらっていた。Fさんのいびきがひどいらしい)が入院してきた日から同じテーブルの斜め前になったが、グループワークで一緒になり、その上主婦なので意表を突かれた。向いの席のUさん(未亡人)もそうだが、せいぜい鬱としてもアルコール依存症とは思えないのだ(注1)」

「入浴後に図書室から借りた吉本隆明『老いの流儀』を読み進め(注2)合間にデイルームで面白そうな会話に加わったり。いろいろな話が聞けて興味深い、が、やはりつまらない中での楽しみでしかない。夕食後Kくんと第三病棟に服薬に行くと、気が狂うから退院する、というStくんとKくんはもう顔見知りで、喫煙室で事情を聞く。最初は煙草のせびりから始まって大暴れ、盗難事件多発で、お茶用の電気ポットも危険だから看護婦が管理しているという。あ、あいつですよ。その男が人から巻き上げたのか、むき出しの煙草一本持って入ってきたので三人とも出てきた。初老と覚しいが、凶悪なロシア人ボクサーのようだった」

「追加眠剤もらいに深夜に行くと、男は呂律のまわらない口調で看護婦にあずけてあるパンくださいよう、ハラ減って眠れないんだよう。預かっていませんよ。じゃあ余りのパンくださいよう。ありません。じゃ、ビール。水でも飲んでなさい。すると急に両腕をあげて、うひゃひゃひゃひゃ、と高笑いした。男の背景がはっきり見えた。アル中や精神疾患どころではないのだ」

(注1)彼女とは退院後不倫関係に陥る。
(注2)吉本老いたり、の読後感。R.I.P.