人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟の思い出34

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・3月20日(土)晴れ
「日直という義務感で七時にスカッと起きる。まずデイルームの流し下の環境タオル(注1)の交換を七時半までに。朝食では布巾を各テーブルに配らなければならないが、ヘルパーさんが先に配っていてくれたので全テーブルを拭く。八時半までにトイレの洗面台の拭き掃除を使用済み雑巾で済ませ、四台ある洗面台の脇にそれぞれ置いてある雑巾を交換。案外あっさり済んだ。九時40分からの朝の会では、抗酒剤(注2)の服用の音頭をとるのも日直の役目だ。今日も元気にすごしましょう、ではみなさんいただきます」

「看護婦の連絡事項のあとFさんが挙手して、先週の全体会で決った古い掲示物の更新はいつしてもらえるんですか、バス時刻表の方もクラークに訊いたら申し送りもされていなかったのでぼくが貼り替えておきました。そのうちします。そのうちっていつですか。温厚なFさんが(注3)怒りで詰問口調になっている。ではそのうちに、と看護婦は話をうやむやにし(注4)、検温と血圧測定を始めます。Fさんは融通も利く人だが筋を通したい面も人一倍強い(注5)」

「19日追記。朝の会であいさつしなかったKmさんは実は夕方退院だったそうだ。朝食にも昼食にも姿がないから早朝退院だと思っていたが、今回の入院が非常に不服で入院医療費不払い交渉のためハンガー・ストライキしていたらしい。不服の原因はFさんの鼾による移室願いに対するぞんざいな対応で、金など払うか!と激怒していたという。真似できない(注6)」

(注1)普通に大布巾となぜ言わない?
(注2)抗酒剤には肝臓でアルコールが分解される機能を阻害し、アレルギー反応を起こす効果がある。人により作用は大きく異なり、軽い場合は手足のかゆみ程度、重い場合は心臓麻痺や意識不明まで効果に開きがある。Tkさんが一時隔離されていたのは、抗酒剤の服用だけで麻疹や風疹状のアレルギー症状が生じたからだった。
(注3)退院後すぐアル中に戻ったFさんから電話がきたが、同じ人と思えないほど酒乱、しかも後で記憶がない。本物のアルコール依存症は洒落にならない。
(注4)精神科に限らず、入院施設では受け流すタイプの看護師は必ずいる。
(注5)だが泥酔するとレイプまでして、酔いが醒めると記憶がない、という深刻なアル中でもあった。
(注6)普通できない。