人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟の思い出49

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・3月21日(日)晴れ
〈祝・春分の日
(前回から続く)
「デイルームに喫煙しに行くと、Kくんがさきほど散歩していたおばさまがたと四方山話をしていた。テレビの前ではMさんがのんびりと、晩に本放映の『大食い女王選手権・予選地区部門』を観ている。すごいよなあ、とMさん素直に感嘆している(注1)。他に今第二病棟にいるのは(中略)でUzさんはお嬢さんがいらして面会中、同室のYnさんとAtさんはいつも通り一日中ベッドで新聞とファミリー四コマまんが雑誌を交換しながら隅から隅まで読んでいる。退屈だが平和そのもの、というムード」

「一服したら部屋に戻って読書しようと思っていたがKくんとおばさまチームに捕まり、おせんべいをごちそうになる。お嬢さんに続いて妹さん一家とご友人から面会を受けて戻ってきたUzさんが、みんなでこれ分けて食べて、私ひとりじゃ食べきれないから(注2)とマドレーヌやブッセその他の詰め合わせを開ける。デイルームに居合わせたみんなでおいしくいただいた後は証拠隠滅のために(注3)箱を細かくちぎり、小包装袋ともどもヴィニール袋にまとめて、念のためロビーのゴミ箱に捨てて出所不明にする」

「エレベーターでロビーに降りると、数メートル先に大きな肩掛けカバンを提げた男の背中、その隣に奥さんらしい30歳代の女性がいて、5歳くらいの女の子、3歳くらいの男の子が男の正面で、パパ、はやく病気をなおしてください。うん、よく言えたね、それから?パパ、病気をなおさないと会ってあげないよ。よし、よく言えた。その間奥さんは柔和な表情で子供たちに目をそそぎ、男は背中しか見えなかったが声に暗さや不安はまったくなかった」

「ゴミ箱はエレベーターのすぐ脇にあったので男の正面にまわりこむ用件はなく顔を見ることはできなかったし、こういう場に他人が居合わせてはいけないのでさっさと上ってきた。一時間ごとにエピソードがあるな、と日記に向うとKくんが寄ってきて、あーあ、何もねえなあ」
(続く)

(注1)退院後に不倫関係になった女性の件で相談せざるを得なくなった時も、開口一番「ビューティフル、ワンダフル」と言われた。
(注2)ホステスさんの仕事が長いので、食事もゆっくりですぐ満腹になる少食な人だった。
(注3)アルコール科では購入・差し入れの飲食物は原則看護婦の検疫がいる。