(前回から続く)
「やがてUzさんがトイレに立ち、Kくんがこれ死守してくれよ、とわざわざこちらにリモコンを寄せる。二人ともついでに食後の歯みがきでもしているのか、またはKくんならMさんとSmくんの部屋に寄り道でもしているのか、なかなか戻らない(こちらは新聞を読んでいるので用はないが)。するとNk老画伯がスッとやってきて、失礼、とリモコンを取り上げてテレビ台の下のリモコン置きに戻してしまった。思わぬ冤罪にムッとするが言い訳したって仕方ない。拒否しなかった時点で共犯者には違いない。Kくんが戻ってきて、ん？リモコンは？Nkさんが戻しちゃったよ」
「新聞も読み終えたし『ペケポン』に興味はないので部屋に戻って日記にかかると、Atさんが佐伯さん…昨日のAA…最後の人の話…憶えてます？Atさんの言語障害程度はひとつの構文を発声するのはかなりの困難だから、真剣な質問に違いない。そうですね、話の内容は憶えていますが、自立感という言葉が出てきたかは憶えていません。一度に七人の話を聞いたので、細かいところまでは…。自立感…？最後の人の話は、AAに入って立ち直ったという結びでしたから、自分を立て直すための集まりがAAですという意味で自立感と言ったのかもしれませんね。Atさんは納得いかない顔。あまり言葉の意味だけを気にする必要はないと思いますよ、と言うとそれでようやく安心してにっこり笑顔になり、自分のベッドに戻って新聞を読み始める。Ynさんと交換した新聞だ。いいコンビだ。Kくんがいない時のこの部屋は平和だ」
「日記の続きを書いていると、Kくんが飛び込んでくる。『ペケポン』の後はSmくんとMさんの部屋を襲撃していたらしい。きみは車運転するか？免許持ってるか？持ってないよ、そんな金も閑もなかったし、免許の必要な生活してこなかったし。ところでいきなりなんで？障害者手帳取得したらこれ(と自動車のハンドルを回す仕草)取り消しになるのか？まあこういう話題は他所で話そうや(AtさんとYnさんの方に目くばせし)Smくんなど障害2級の奥さんがいるのに2、3日前まで自立支援医療証も知らなかったしな。そこでMさんとSmくんの部屋に場所を移すことになる。なんでわざわざ就寝間際に、と一人を除いて誰もが思う。しかもその本人には自覚がない」(続く)
