人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記101

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・3月29日(月)曇りときどきにわか雨
「年輩で家族に恵まれているほど治療の成功率は高いといわれる。独身の一人暮しで親族とも疎遠だとその逆、要するに精神的にも生活面でも例のHALT(hungry,angry,lonely,tired)に陥りやすいわけだ。その点でもKdさんはアルコール依存症から脱却できる可能性が高い。酒歴発表を聞き終えて、各自聞いた内容の要約と感想をノートに書いて提出する。この酒歴発表は、ほぼ三か月を目安に一巡半する学習プログラムを各人が一巡したあたりで予定が立てられ、学習の理解を通して自分の飲酒歴の生成や問題点を理解し、十全に対策を立てて退院後の生活に臨む、という一種の卒論発表で、発表後の退院予定は主治医との相談によってなされる」

「その時点ですでに入院期間は二か月を越えているから、隔離され半ば監禁された状態でこれだけの期間を過ごした経験のある人は初入院ではまずおらず(内科・外科系の入院と精神科ではまるで違う)退院後の(断酒以外の)日常生活復帰への計画や心構えも立てなければならない。刑務所みたいに刑期満了、または無罪か執行猶予なら即刻預け物を返されてシャバにポイでなんのアフター・フォローも生活保証もない司法施設とは(だから再犯が絶えない)さすがに違うのだ。それでも精神科、ことにアルコール科の再入院率は二年以内に九割の高確率を防げないわけだが」

「ノート提出後に乾燥機からKくんに頼まれていた洗濯物を取り出し、あまり丁寧すぎないように畳んで彼に渡された衣類かごに納めていると、HAからこれKさんの?と靴下の片方を渡される。この前Kyさんに自分のを渡された時と同じことをやってしまった。改めて靴下だけは慎重に揃える」

「少年ジャンプの発売日だな、『HUNTER×HUNTER』の立ち読みに行こうかとセーターを着こみ、下駄箱の前でスリッパから靴に履き替えていると、出かけるの?とMさん。ええ、コンビニに、石鹸買いに。おれのも買ってきてくれないかな、いくら?一種類しか置いてませんよ、百円の。Mさんは苦笑し、それでいいよ、頼む。この病院は陸の孤島で、Fd病院やSd病院に匹敵する規模だが公売部もなく刑務所みたいに注文購買もないから、病院前のコンビニは事実上ここの患者を顧客としてその需要で営業しているのだ。一般の民家は付近にはまったくない」
(続く)