人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記115

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・3月30日(火)曇りのち晴れ
「そしてKwがHAに、空気読みなさいよ、ごめんなさいとやりとりしているのにはデイルームの空気が失笑と怒りの入り混じった雰囲気が一瞬、漂った。誰よりも傍若無人な振舞いで病棟中を汚染している張本人が、よくもぬけぬけと、たとえ相手がこれまたいかれたHAとはいえ、素行を注意できたものだ。もしこれが疲れた病人ではなく健康な人間の集まりだったら、失笑や怒りを通り越して殺気立っていたかもしれない。生保医療の担当医といい、受け入れたこの病院といい、よくまあこんな男の休息入院を許したものだと思うが、単純に空きベッドがあれば入院を断れない事情があるかもしれない。医療もビジネスだから生保医療患者は取りはぐれのない顧客とも言える(注)」

「Kくんは結局夕食後の二度風呂計画取り止め。体調大丈夫かい、Smちゃん何とか食べてるじゃん。ぼくが食べなくなったら本当にアウトだから、とSmくん。昨日おれが買い物つきあわせて疲れさせたかな?いや、先週の週末から奥さんの愚痴ずっと聞かされてずっとくたびれてたから。では今日の午後もきっと、切るに切れない長電話だったのだろう。てっきりホームシックなのかと思っていたが逆で、彼の鬱病は十代の頃から発症しているという統合失調症の奥さんとの結婚生活によるようだ。また、彼がしきりに主張するのが奥さんのバイオリズムとの同化で、愛情の現れよりも自分に科した義務のような印象を受けるばかりか、佯狂転じて彼自身が陽性症状と陰性症状を示しているように見える。双極性由来による躁鬱の現れではないだろう」

「部屋でひと息つき、無人喫煙室に入ると灰皿の水にピース・ライトの空箱が浮いている。一服して部屋に戻りKくんに、灰皿掃除8時からだよな。ああ。部屋にいるから呼んでくれ、驚くぜ。何だよ?見ればわかる。しばらくして戻ってきたKくんは、師匠(Fさん)と終らせた、Kdさんが早くしようと言うから三人でやった。呼んでくれりゃいいのに、あったろ。あった。どうした?捨てた。証拠品だぜ。佐伯くんもおれも師匠もKdさんも見てる。明日の全体会で言おう」(続く)

(注)先日訪問看護のコイケさんから聞いた話。世界人口64億人で世界中の精神病床数60万床、そのうち日本だけで30万床なんですよ。病院側に入院患者を求める需要があるんです。