人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(17)

イメージ 1

ほら、と偽ムーミンはスプーンの底をスープの表面につけると、軽く押したり持ち上げたりしてみせ、もう皮ができてるよ。
ほう、とムーミンパパは皮肉な口調で、お前もいつの間にかずいぶん賢くなったようだな、われわれは良い息子を持ったものだなママや、しかも親に向かって聞いたような口をききおるとは実に大したものだ、将来が楽しみというものではないかね?
などなど、なんだか妙に絡んでくるので、黒ビール一杯でこんなに酔うものだろうか、まさかとは思うが今日のムーミンパパは息子が偽ムーミンと入れ替っているのに気づいているのだろうか、と偽ムーミンは冷や汗をかく思いでした。
冷や汗と言ってもたとえ話で、ムーミン族はトロールですから哺乳類のような恒温動物よりも両棲類や爬虫類のような変温生物、もっと言えば気体や粒子に近いのです。それがたまたま直立したカバに似た生物の風貌をしていても、本質的には生命すら超越した存在なのはムーミン谷のタブーになっていました。
というのは、ヘムレンさんとジャコウネズミ博士、それとスノークも一致した意見では、もしムーミン族に関する真実が全世界に知られれば大変な事態が予測されるからなのです。
見たまえ、とジャコウネズミ博士は言いました、これがムーミンから採取したサンプルだよ。毛もなければ爪もなく、血液らしきものもないムーミンから何とか削りとった細胞がこれだ、もしこれを細胞と呼べるなら、ね。
ヘムレンさんは顕微鏡を覗いて愕然としました、まさか、信じがたい!
どれどれ私にも、と顕微鏡を覗いたスノークもひっくり返りました。これが細胞ですか!ムーミンそのものではないですか!
そう、それを細胞と呼べるなら、一個体のムーミンは全体が一個の細胞から出来ていると考えられる。ところが細胞とは本来他の細胞によって代謝されたエネルギーを必要とするものだ。だがムーミンはエネルギーの消費なしにエネルギーを発生させる。
永久機関…。
しかも、見たまえ。もう一つのムーミン細胞を合わせてみると…
融合した!どういうことですか博士!
…なるほど、とヘムレンさん。ムーミンは熱力学の第三法則下にない。しかも個体とは便宜的な形態に過ぎない。これが世に知れたらどうなるかわかるかね、スノークくん?
どうなるんです?
すべての個体は滅び、世界は終わるんじゃよ。