人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

新・偽ムーミン谷のレストラン(63)

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 それで話っていうのはなあに、と偽ムーミン、みんなに聞かれちゃまずいことなの?
 まずいかどうかもまだわからないんだ、とスナフキン。だけれどなるべく大事にならないように確かめてみたい。もちろんひとりだけで調べることもある程度ならできる。でも一人だけで確かめて何かに気づいた場合は、それが自分だけに起きることなのか、誰にとってもそうなることなのかまではわからない。だからきみにお願いしているんだ。
 何でぼくに?
 それは、とスナフキンは言葉に迷いながら言いました、ムーミン谷の人びとの中で、きみがぼくの覚えているムーミンといちばん違うからなんだ。つまり……
 はあ、ケンカ売る気?と偽ムーミンは身を固めました、何が言いたいの?
 信じられないかもしれないけれど、とスナフキン、ぼくはムーミン谷に来たのはこれが初めてじゃないような気がする。きみのお父さんやお母さん、スノークやフローレン、ミムラさんやミイ、さらに年輩の男性トロールたちや魔女たちまで一度ならず会ったことがあるような気がする。今フローレンと呼ばれている彼女はノンノンと呼ばれていたことも、スノークのお嬢さんと家名で呼ばれていた時もあった。そのくらいあいまいで、しかしまぎれもなく、ぼくは以前にもこの谷に来ているんだ。
 そこまで言うんならそうだろう、と偽ムーミン、ぼくには関係ないけどさ。
 関係ないかな、とスナフキン、そうなんだ、ぼくの知っているムーミン谷にもきみがいた、そうでなきゃおかしい。ムーミン谷にはいろんな人がいた。なのにきみはぼくの知っているムーミンとはだいぶ違って見える。
 違うって例えば?
 ぼくの知っているムーミンはきみみたいに全身毛むくじゃらじゃなかった、とスナフキンはぶしつけも構わず言いました。
 だってそれは毛のない時のぼくしか知らないからさ、と偽ムーミン
 しかしきみの手のひらや足の裏には毛が生えていないが、とスナフキン、ぼくの覚えているムーミンの皮膚は緑色ではなかった。
 それはぼくの肌が緑色じゃない時しか知らないからさ、と偽ムーミンは言いました、いいかい--
 なら簡単だ、とスナフキンは言いました、きみがぼくの知っているムーミンじゃないなら、きみだってぼくを知らないはずだ。
 それは違うよ、と偽ムーミン、ぼくが緑色だろうと毛むくじゃらだろうと、ぼくはいつだってムーミン谷にいた。
 用件はそれさ、とスナフキンは言いました。