マルクス兄弟は喜劇チーム名で兄弟を名乗っているのではなく1887年生れの長男チコ、1888年生れの次男ハーポ、1890年生れの三男グルーチョからなる実の兄弟です。舞台芸人時代は1897年生れの四男ガモ、パラマウント初期五作(後述)までは1901生れの五男ゼッポもチームの一員でしたが、舞台劇では不可欠だったと想像されるゼッポの存在は映画では稀薄極まりなく、メトロ移籍に伴い(後述)ゼッポは辞任します。
チャップリンは1889生、ロイドは1993生、キートンは1995生なのは前回述べた通りです。
また、付け加えればマルクス兄弟が兄弟の役柄で映画出演したことは全作品を通じて一度もありません。さらに、舞台劇を映画化したパラマウント初期作品ではマルクス兄弟自身による演出が多く取り入れられていますが、パラマウント~MGM、さらにその後の独立プロ作品を含めて、マルクス兄弟は自分たち自身では映画監督を勤めることはありませんでした。それが自作自演を貫いたサイレント期のチャップリン、キートン、ロイドらとの違いで、キートンとロイドですらトーキー時代とともに監督兼任から一主演俳優に後退しています。
サイレント三大喜劇王の出演作品は膨大なタイトルがありますが、マルクス兄弟は20年間で13作、そのうち連続して作品が制作されていた期間は12年間にすぎません。
・1.ココナッツ(1929)
・2.けだもの組合(1930)
・3.いんちき商売(1931)
・4.御冗談でショ(1932)
・5.我輩はカモである(1933)
・6.オペラは踊る(1935)
・7.マルクス一番乗り(1937)
・8.ルーム・サーヴィス(1938)
・9.マルクス兄弟珍サーカス(1939)
・10.マルクスの二挺拳銃(1940)
・11.マルクス兄弟デパート騒動(1941)
・12.マルクス捕物帖(1946)
・13.ラヴ・ハッピー(1949)
このうち1~5がパラマウント社作品で掲載画像上のボックス・セット、6~11がメトロ・ゴールドウィン・メイヤー作品で8を除き独立プロ制作の12を加えて画像下のボックスに、残る8と13は単体発売されています。『オペラは踊る』の原題は'A Night at the Opera'で、『マルクス一番乗り』の原題は'A Day at the Races'です。
アルバム・タイトルでマルクス兄弟に賛辞を捧げたクイーンばかりでなく、ダリやブニュエル、アルトー、ベケット、イヨネスコ、さらにボーヴォワールやサルトルでさえもマルクス兄弟に驚嘆していますが、意外なのはジョン・コルトレーンが大ファンで深夜テレビの再放映は観逃さず、ハーポのハープ演奏が好きで夫人にハープを習得させたほどでした。マルクス兄弟の人気は大衆にもインテリにも絶大だったのです。