人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(13)

 スヌーピーの主張する通り、たとえルーシーがパインクレスト小学校の秩序を滅茶苦茶にしてきたからと言って、それがすなわちスヌーピーの危機にもつながるとは飛躍した見解でもありました。確かに彼はチャーリーの犬(端的に言えば)であり、ライナスの友人でもありますが、それをもってルーシーの怨恨の対象になるならばブラウン理髪店だって十分に危険です。
 ですがチャーリーの言うルーシーの凶行がそのように常軌を逸した、狂暴なものならば、本当にブラウン理髪店まで襲撃されかねないし、スヌーピーの身にも危険がおよぶ可能性は十分ある。彼はルーシーと関わることはあまり直接にはありませんでしたが、マーシーやペパーミント・パティに対してと同様に気落ちしている少女に慰めのキスをするたしなみがあり、マーシーやパティには気持が通じましたがルーシーの場合は間接であってもキスしようものなら「黴菌もらった!消毒して!赤チン持って来て!」と騒ぐのです。
また、チャーリーの草野球チームでスヌーピーは鉄壁の守備を誇る不動のショート、対するにルーシーは凡フライすら捕れないライトでした。こうして上げていけば、スヌーピーの英雄的活躍の陰にルーシーの道化的失敗談がついてまわらない方が少なく、犬にも劣る屈辱を味わわされたのは男の子たちも変わりありませんが、少年たちの場合は犬になら負けても仕方がないやとかえって切り替えは早いのです。ですが、ルーシーはとことん根に持つタイプでした。
 それを言うならスヌーピーは、ビーグル犬であるという特権によってパインクレストのお犬様的存在であり、超法規的な行動が公然と認められていたのです。当然納税だってしてはおらず(検疫は受けていましたが……これだけはチャーリーには荷が重いと、お父さんが連れて行っていました)、スヌーピーをやっかみ、逆恨みしようと思えばルーシーならずとも、誰でもそのきっかけはあったのです。
 チャーリーが以前から漠然と恐れていたのもそこでした。パインクレストの人々はスヌーピーのことなら大目に見てくれ、楽しんでくれさえしている。だが現状こそが異常なのであり、ある日ふとスヌーピーに対する認識が反転しやしまいか。突然スヌーピーを見る目が嫌悪と憎悪に変化しはしないか、と。また、その時チャーリー本人はどうなってしまうのか、とも。